喪失体験は人生における最大級の心的ストレス。その衝撃から、人はどのような段階を経て、回復していくのでしょうか。また、その衝撃の大きさによっては、喪失体験が心の病気のきっかけとなる可能性もあり、残された者の余命にも影響が出やすい事もあります。今回は、その喪失体験と回復のプロセスを詳しく解説していきます。

 

身近な人を亡くした時の衝撃は、心身の健康に深刻なクライシスを起こし得るもの

完全に元の活力が戻るまで、かなり時間が掛かるばかりか、場合によっては喪失体験をきっかけに、うつ病など心の病気を発症する可能性もあります。

 

人は生きていくなかで、時に思いがけずショッキングな出来事に遭遇する事もあるかと思います。なかでもショッキングな出来事といえば、身近な人を亡くした時ではないでしょうか。

気持ちはひどく沈み、しばらく何かを見たり聞いたりするたびに故人を思い出してしまう……。元の活力が戻るまでには、しばらく時間が必要になる場合が多いかと思います。

今回は、喪失というショック体験による心の不調と、それに関連する心の病気を主に解説していきます。

 

喪失後、しばらく故人の事が頭から離れなくても、それは通常の反応

身近な人が亡くなるという事は人生における最大級の心的ストレスだと思います。特に長年苦楽を共にしてきた伴侶に先立たれたら、そのショックから、しばらく立ち直れなくても当然。その衝撃は、残された人の余命にも影響が出る可能性もあります。

もっとも、喪失体験への心的反応は個人差が大きいもので、一概にはっきりした一つのパターンに従うとは限りません。しかし、これから述べるパターンは一般的な心的反応として提唱されているもので、これは実際の心的反応を理解そして評価するうえでの物差しになり得るものです。

喪失体験には大まかに3つの段階があります。最初の段階は、喪失を知った直後のショック状態。頭が真っ白になる。あるいは喪失という事実を信じる事ができず、「そんなはずがない」と強く否定する。そして、息をするのも苦しく、涙は止まらず、ため息ばかり出てしまう。

 

場合によっては現実から自分が遊離してしまったような非現実感を覚える可能性もあります。こうしたショック状態から、ある程度、回復したのが第2段階です。第2段階の特徴は故人への観念が頭を占める事。

 

自分の大切な人を奪われた事に対する強い怒り、そして、それを誰か、あるいは何かに抗議したい気持ち。それと同時に、喪失感による抑うつ症状も現われやすくなります。こうした症状が次第に収まってくると、第3段階になります。

 

気持ちは前向きになり、次第に故人のいない日常に適応して行きますが、日常生活上、新しい人間関係を構築できるほど、活力が戻るには、一般的には半年から1年ほどの時間が必要になるでしょう。

 

喪失の苦悩は時に深刻化する事も

喪失の苦悩が深刻化するケースとしては、まず、喪失の悲嘆が長期化する場合です。故人を失った辛さに心が覆われてしまい、故人に関する記憶が、より理想化された過去として認知されやすくなります。

 

こうした事が起こる要因として、故人との関係が非常に密接、あるいは故人への心理的依存など、複雑な心理関係にあった場合、さらには、故人を失った悲しみを共有する親族や友人がいないといった場合も考えられます。

また、故人の死が、残された者にとってあまりにも突然だった場合、心的反応が通常のレベルを超えてしまう可能性もあります。もしも、それが家族の一人だけに生じた場合、場合によっては家族の他のメンバーとの間に何らかの軋轢が生じる可能性もあります。

また、場合によっては表面上、喪失の悲嘆がはっきり現われない事もあります。それは、故人が亡くなったという事実をどうしても心が受け入れられない事。

 

しかし、やがては事実を事実として受け入れるしかなく、その時生じ得る、自分の大切な人を奪われた喪失への強い怒りは、心の苦悩をより深刻化させてしまう可能性もあります。