心の病気には分かっているようで分かっていない面が少なからずあります。心の病気の原因もその一つで、単純に特定できるものではありません。今回は心の病気の原因や発生のプロセスについて詳しく解説していきます。

 

心の病気は一般的に本人の体質的、心理的、社会・環境的要因が複合的に寄与して起こる

気分が大きく落ち込む、うつ病を含めて心の病気は一般的に本人の体質的、心理的、社会・環境的要因が複合的に寄与して起こります。心の病気には、分かっているようでちゃんと分かっていない部分があります。

何か辛い事が起きたときに心が落ち込むのは当然ですが、それならば気分が大きく落ち込む「うつ病」は、非常に辛い事が引き金になったかというと、そうとも限りません。うつ病に限らず心の病気の原因には、これだと言えるほど単一の要因がないのです。

また、体の病気の場合は、誰に対しても大体同じ原因で起こります。例えばインフルエンザなら、体内にインフルエンザウイルスが侵入して増殖し、組織や臓器を攻撃し始めるという共通の原因とメカニズムが分かっています。

 

これに対して心の病気は、それぞれの人の体質的な要因、心理的要因、社会・環境的要因が複合的に関与して生じます。少し複雑な心の病気の原因と、発生プロセスについて、以下で解説していきます。

 

心の病気の原因は複合的!

心の病気は本人の体質的な要因、心理的要因、社会・環境的要因が複合的に寄与して生じます。体質的な要因とは本人の生まれつき、つまり、遺伝子レベルで決まる病気への親和性です。

 

うつ病、統合失調症など多くの心の病気では、脳内の神経伝達物質の働きに問題が生じている事がわかっています。

 

神経伝達物質の働きを決める要素として、神経伝達物質を分解する酵素、神経伝達物質が結合する受容体の構造などは、遺伝子レベルで決まるので、本人の生まれつきの要素は心の病気の大きな原因の一つになります。

しかし、心の病気になるかどうかは生まれつきだけでは決まりません。全く同じ遺伝子を持つ双子において、その一人に心の病気が生じても、もう一人は同じ病気に必ずしもなる訳でない事が分かっています。以下のような心理的要因、社会・環境的要因も重要です。

  • 親の死別など、小児期の辛い体験
     
  • 劣等感や現実対処能力を低下させるような思考パターンの形成
     
  • 心理的サポートの得にくい生活環境
     
  • 転職、転居など生活環境の変化
     
  • 職場の人間関係などストレスの多い生活環境

 

心の病気に関係する脳内神経伝達物質 セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン…

神経伝達物質とは、神経細胞から次の神経細胞へ情報をリレーする物質です。後ろの神経細胞は、前の神経細胞から神経伝達物質を受け取る事によって、さまざまな情報が伝えられます。

脳内神経伝達物質にはセロトニンドーパミンノルアドレナリンなどがあり、それぞれ幅広い生理機能を担っています。

心の病気の詳細なメカニズムは不明とは言え、多くの心の病気では脳内神経伝達物質の働きに問題が生じている事が分かっています。

例えば、気分が大きく落ち込んでしまい、日常生活に多大な支障が生じる「うつ病」の時は、セロトニンの働きに問題が生じ、また、幻覚や妄想など現実と非現実の境界がぼやけてしまう症状が特徴的な「統合失調症」では、ドーパミンの働きに問題が生じている事が分かっています。

結局、心の病気は体質的にある程度なりやすい人が、上記の心理的、社会・環境的要因によって、脳内神経伝達物質の働きが乱れやすい状態になっていて、必ずしも重大なストレスとは限らないのですが、何らかのストレスがきっかけとなって発生すると大まかに理解する事ができます。

心の病気には数多くの病気がありますが、その多くは「気分障害」「不安障害」「精神病性障害」の3つのカテゴリーに含まれます。