今日は、私が春から通う高校のオリエンテーションがある。

オリエンテーションは午後からだけど、あの人に会うためだけにいつもの電車に乗った。自分でもバカなことしてるなぁと思う。
駅とかで時間潰せばいいや、


今日はいつもより4駅長く電車に乗らないといけない。
もしかしたら、あの人が降りる駅わかるかな?もうストーカーみたいじゃん私(笑)



途中の駅で乗ってきた小さいおばあさんに席を譲って、つり革や手すりに掴まらずに体幹だけで揺れに耐えている彼女。
電車が揺れるたびにフラフラしていたので、転んでしまわないかとひやひやしながら、斜め後ろから彼女の背中を見ている。

私より背の高い彼女が、つり革に届かないわけがない。なんで掴まらないんだろう?つり革とか触るの嫌な人かな。だとしたら私と一緒だ(笑)




ポケットからスマホを取り出そうと下を見ると、私の足下に白くて丸いものが落ちている。
私の背中のリュックが周りの人に当たらないよう気をつけながらそれを拾う。

フェルトで作られたバレーボールのキーホルダーだった。綿が入っていてふわふわしている。
裏を見てみると「4」という数字と、その下に「りさ」と青い糸で刺繍されていた。


私のリュックにも「4」とかかれたユニフォームの形のストラップが着いている。部活の後輩が作ってくれたもの。


私が拾ったそれも、誰の落しものかわからないけど、大事なものなんじゃないかなと思った。




◯◯ 「ぁ、ねぇ」

平手 「へ?」


寒い空気が流れ込んできたのと同時に、多くの人が降りていった。
少しひんやりした車内で、私は誰かに声をかけられた。


私の目の前にはさっきまで私に背を向けていたあの人が立っている。


◯◯ 「あの、それ...」

平手 「え?」


彼女の人差し指のさきは私の手に向いていた



平手 「あっ、これ?あなたのですか?」

◯◯ 「はい、拾ってくれてありがとうございます。大事なものなので助かりました。」

平手 「いえ、良かったです。」



2年半の間、毎朝見ていたあの人の、初めて聞いた声。少し低めの落ち着いた雰囲気だった。


せっかく話せたのに、会話はたったそれだけで終わってしまった。
自分のコミュニケーション能力の無さには呆れてしまう。




『次は坂道。坂道。お降りのかたは__』



私がいつも降りる駅。ここから先には行ったことがないので少しわくわくしながら、いつもなら真っ先に降りるはずの開いたドアを見ていた。


 トントン


ギリギリ感じるか感じないかくらいの弱さで、そっと肩を叩かれた。
遠慮がちに私を振り向かせたその手の先にいたのは、いつの間にか私の後ろにまわっていたあの人。



◯◯ 「降り...なくて、いいの?」



私が降りるのを忘れているのではないかと心配してくれたのか、小さな声でそう聞かれた。


平手 「はい、今日はもう少し先で降りるんです。」

◯◯ 「あ、そうなんだ」


少し照れたように笑った。




平手 「あの、りささん?っていうんですか?」

◯◯ 「え?、あぁ〜キーホルダー?そうだよ〜」

平手 「バレー部なんですか?」

りさ 「うん!あ、お名前聞いてもいいですか?」

平手 「あ、ひらてゆりなです」

りさ 「ゆりなちゃん、ありがとう。あっ、勝手にタメ口で話してたけど、何年生?」

平手 「中学3年生です」

りさ 「え、中学生なの?!大人っぽいねー」


そう。よく言われるんだよねー、もっと年上に見えるって。


平手 「(笑) あっ、私次で降りますね」

りさ 「お!じゃあ一緒だぁー」

平手 「ほんとですか!嬉しい!!」


欅駅で降りてたんだー!この辺の学校なのかな?


りさ 「今日はなんでここまで来たの?」

平手 「今日は高校のオリエンテーションなんです。あの、そういえば、さっき。なんで私が降りてる駅知ってたんですか?」

りさ 「あ...//// その、ずっと見てて..さ。気持ち悪いよねごめんね?、」


うそだ!私のこと知ってたなんて...
真っ赤になっているりささんの顔を見れば、それが嘘ではないことがよくわかる


平手 「えっと...私も、です。」

りさ 「!うそ ほんとに?」

平手 「はい...////」



『欅。欅です』



お互いに照れてしまって、沈黙しそうだったけど、車内アナウンスが空気を読んでくれたように、私たちの沈黙を破ってくれた。




りさ 「そういえばどこの高校行くの?」

平手 「欅学園っていう学校です」

りさ 「え!?一緒だよ!私そこの2年生!」

平手 「えー!そうなんですか?!」

りさ 「うん!」

平手 「...ん?え?3年生じゃないんですか?」

りさ 「ん?違うよ?(笑)」


あれ?なんで?
初めてりささんを見たのは1年生のときだったはず...


平手 「でも私、1年生のときからりささんのこと毎日...あっ、!////」

りさ 「そんなに前から私のこと見てたの?(笑)」

平手 「いや、違っ...くないけど、!」

りさ 「あはは(笑) 私の勝ちだな!」

平手 「へ?」

りさ 「私はゆりなちゃんが中学生になる前から見てたよ?」

平手 「え?」

りさ 「3年前もさ、中学校のオリエンテーションかなんかあったんじゃない?」

平手 「あ!ありました」

りさ 「そのときから、可愛い子がいるなーって。(笑)制服姿のゆりなちゃんを初めて見たときほんとにすっごい惚れた(笑)一気に大人びててさ」

平手 「/////」


ただただ嬉しかった。
一方通行じゃなかったんだなって、


りさ 「あーあと、欅学園に中等部があるのは知ってる?」

平手 「はい」

りさ 「たぶんゆりなちゃんが1年生のときは、私 中等部の3年生だったんだよ」

平手 「あー!そういうことか!」



話しているうちに 私立欅学園 の文字が見えてきた。



りさ 「オリエンテーション何時から?」

平手 「あっ...と、 13時...」

りさ 「え?!まだ7時半だよ?」

平手 「その...りささんに会いたくて、いつもの電車に、」

りさ 「//// なにそれ...嬉しすぎる、」

平手 「じ、じゃあ、また。どこかで時間潰してきます」


りさ 「待って!」


歩き始めたところで、袖を掴まれて動けなくなった。

りさ 「私も...一緒に行きたい」

平手 「え でも学校は?」

りさ 「んー、午後から行く!」

平手 「え、そんなことして大丈夫なんですか?」

りさ 「んー?大丈夫なわけないじゃん(笑)」

平手 「なら...」

りさ 「いいの!もうちょっとだけ一緒にいたい」

平手 「私も...////」

りさ 「ふふ(笑)行こ?」

平手 「ん」





暑苦しいあの箱の中で生まれた、私の片想いは、きっとハッピーエンドを迎えるんだろう。





終わり