窓を開ければ外は夏の盛りで、エアコンで冷やされていた皮膚が太陽光に容赦なく焼かれ始める。

うんざりするような熱気の中で私は洗濯物を竿にかけた。

そういえば朝早くにも関わらずセミが鳴いていない。

虫すらも耐えられない猛暑の中、テレビニュースでは老夫婦の熱中症死について報じていた。

 

この老夫婦は、エアコンが嫌いなタイプだったのだろうか…

それとも、電気代を節約するためだったのだろうか…

 

前者ならば老人は体温感知能力が低いと言われているのである程度は仕方ない問題なのかもしれない。

私が恐れているのは後者だ。

 

上がり続ける物価に年金受給額の減少が追い打ちをかける。

節約のためといって冷暖房費をケチってしまう老人が後を絶たない。

1日数百円程度の冷房費も払えないような貧しい老後は嫌だ…

 

そんなことを考えながら掃除機をかけ、フローリングシートで仕上げ磨きをする。

今夏は電気代のことは考えることをやめ、室内はエアコンで常に26~27度と快適な気温に保たれている。

この生活がいつまで続けられるのだろうか……

 

私の月の支出は平均して15万円ほど。

食事はほぼ自炊で外食は月に1~2回程度であり、日用品もプライベートブランドを中心に買って節約している。

服飾もあまり買わず、娯楽は月に1~2冊買う書籍のみ。

若いころには月に数回言っていた映画鑑賞もやめ、ゲームや漫画を購入することもほぼしなくなった。

友人との交流は途絶え、外出は近場で買い物をするか公園などに出向いて散歩するのみ。

特にこれといったスキルもなく、あまり能力も高くはない私の収入はそれ相応のものしか得られていない。

仕方がないのだが、あと一歩で貧困という瀬戸際に立っている。

 

貯金ペースは微々たるもので老後資産2000万円問題は一生解決しそうにはないし、この年収では中古マンションですら買うことができそうにない。

年金受給者にさえなれば公営団地に入居できるかもしれない、そんな一寸の可能性だけが私の救いだ。

来年に迫る新NISAを行いたくても投資費用を捻出できるか疑問である。

あれをあやりたい、ここに行きたい、それが欲しい…

ありとあらゆる欲望を抑え、ひたすら銀行を預金で肥えさせるための奴隷業にいそしむ。

なんて非生産的なのだろう……

 

30代以降の人生のほとんどが、老後のために消費されてしまっている気がする。

この数百円の雑貨を買ったばかりに老後に1個のおにぎりが食べられなかったなんてことになりはしまいか、と恐れて消費ができない。

市場にお金を放出しなければ経済は回らず、経済成長もできないというのに。

 

それでも生きられるところまで生きていこうと誓ったあの日から、私はこの不経済生活を続けるしかないのである。

きっとこれからも繰り返される、セミの鳴かない夏におびえながら……