中公新書ラクレで出版された、牧野知弘さん著「街間格差」を読みました。

 

「住む場所を通勤便利性の面からではなく住みよい街で選ぶ時代へ」といったテーマに、東京都の「住まいとしての街」の今後について述べられています。

 

本書が書かれた2019年といえばコロナ禍真っただ中、企業間でテレワークが急速に普及していった時代です。

人々は通勤利便性一択で住所を決めていた今までの流れから一変し、本当に住みよい街、ひいては将来発展性の高い街を好んで住むようになるだろう……そういったことが大まかに述べられています。

 

本当に住みよい街とは何か、または反対にくすんでしまう街(高齢化が進んで将来性のない街など、新宿一等地にも実はあるんですよね)はどこかについて、本書で23区それぞれについて述べられていますので気になる方は是非読まれることをお勧めします。

 

私が気になったのは、やはり「通勤利便性で選ぶ時代が終わった」ことについてですかね。

ここ10~20年ほどで超高層集合住宅、いわゆる「タワマン」が流行し今もなお次々と乱立していますが、この背景にもやはり

通勤利便性一択時代があったからなのでしょう。

ここまで極端に通勤利便性が重要視されるようになった理由に「夫婦共働き」が挙げられています。

 

専業主婦が当たり前だった時代は、夫は郊外から電車やバスで1時間も2時間も通勤に費やして都内に出社…といったことが普通でした。そのため関東近郊の周辺県がベッドタウンとして人気を博していたわけですね。

しかし夫婦共働きとなると通勤に2時間もかけていられません。

共働き家庭は基本的に子供を住居地近くの保育園や学校、塾などに預けると思います。

子どもに万が一のことがあった時に片道2時間もかけて駆けつけるなんて非効率的ですね。

必然的に、夫も妻も都心勤務ならば都心から通勤で30分~1時間以内といった場所に人口が集中するようになります。

(女性がホワイトカラーで働ける仕事が都心に集中しすぎているという問題もこの傾向に拍車をかけていると思います)

 

都心の通勤利便性の高い土地は限られている上に非常に地価が高い…

そのため合理性を追求して生み出されたのが「タワマン」ということです。

悪意のある人は「縦に積んだ長屋をラグジュアリー感でごまかしているだけ」「超高い団地」と呼んでいるそうですが、確かに高度経済成長期の人口爆発時も「団地」は高級住宅街としてもてはやされ乱立されていました。

するとやはりここ20年で建てられたタワマンたちも半世紀もすれば「限界団地」と化していくのでしょう。

 

もし本書で述べられている通り、人々が住む場所を通勤便利性で選ぶことがなくなったとしたら、タワマンも都内駅近マンションも価値が大暴落していくと思われます。

 

……しかし2023年現在、残念ながらそうはなりませんでした。

これにはいくつか原因があると思います。

 

まず、テレワークが定着しなかったこと。

コロナ禍があけた2023年、多くの企業がテレワークを打ち切り毎朝の通勤電車は以前と同じようにすし詰め状態に戻りました。

テレワーク移住を夢見ていた若い夫婦もこれでは都心に戻らざるを得ませんし、やはり都心駅近タワマンに住むしか選択肢はなくなるでしょう。

 

そして何より、外国人投資家が日本の不動産を大量購入していること。

もともと東京の不動産は他の先進国に比べて価格が安いことで有名でしたが、長引く円安の影響で外国人投資家から熱い視線を浴びるようになってきました。

最新のタワマンなどは購入者の半分以上が外国人だとかで……

日本人も日本人で、中古物件が新築価格より上がる中でみんな大好き「リセールバリュー」なる呪文を唱え、猫も杓子もタワマン・都内駅近マンションを買いまくる始末……

 

結局本書で述べられている「本当に住みよい街が選ばれる」ことは否定され、人々は住みづらい都心に集中して住む流れがより強化されてしまいました。

 

もう日本人は「住む」ことを「暮らす」ことだと考えてないようです。

自分の人生に影響がでる住む場所選びすら「投資」の一つの行為でしかないようです。

 

なんともはや……

 

本書で述べられている「本当に住みよい街」が選ばれ、結果として「街間格差」が生まれるという主張は、非常に夢があり魅力的なものでした。

しかし現実は残酷で、「住みよい街なんかよりやっぱり通勤利便性」「豊かな暮らしよりもリセールバリューを意識した物件選び」ばかりが注目され、夢のない街間格差が広がっています。

 

貧しくなっていく日本では、どうやら暮らしに対する情緒的な考え方も貧しい視点になってしまうのですね。

 

今回はそんなボヤキを記事にしてみました。

また何か面白い本を読みましたら記事にしてみたいと思いますのでよろしくお願いします。

 

注:

(※不動産の場合は投機ですが……このブログではまぁ広義的意味で投資と言っています)