《ガラスの部屋》
第一章:閉ざされた部屋
東京の高級住宅街、深夜0時。
古びた3階建ての洋館の2階から、ガラスが割れるような音と共に、女の叫び声が響いた。
館の主・羽澤 礼一郎(はざわ れいいちろう)、67歳は大企業グループの元会長で、強い影響力を持つ男だった。彼は2階の「ガラスの部屋」と呼ばれる、四方を防弾ガラスで囲まれた特別室で、今夜も一人で寝ていたはずだった。
警備員が異変に気づき、部屋のドアに駆けつけたが、ドアは内側から鍵がかかっており、開けられない。窓は密閉式の強化ガラス、外からも内からも開閉不可能で、天井には排気口が一つあるだけだった。
やむなく警察が呼ばれ、数十分後に鍵を破って室内に突入したとき――
羽澤は倒れていた。額に鋭利な凶器で突かれた跡があり、すでに死亡していた。
しかし、室内には誰もいない。
ドアも窓も天井も、破られた形跡はなく、外への抜け道もない。
そして、凶器は見つからなかった。