《ガラスの部屋》
第二章:容疑者たち
事件発生の翌朝、洋館には捜査一課の刑事・**笠井 諒(かさい りょう)**が到着した。鋭い眼差しと無口な性格で知られる彼は、密室殺人に強い関心を持っていた。
彼がまず会ったのは、羽澤家の家政婦・佐野 昌子(さの まさこ)。40代後半の落ち着いた女性で、10年以上この家に仕えていた。
「昨夜0時前に、礼一郎様が『今夜は誰も近づくな』とおっしゃって、ガラスの部屋に鍵をかけて入られました。その後……あの音と叫び声が」
次に、遺産相続の可能性がある親族たちが順に集められた。
【容疑者1】羽澤 真一(はざわ しんいち)
礼一郎の長男。43歳。
会社経営に失敗し、父に勘当されていた。
「父とは10年口もきいてません。遺産? そんなもん、もらえるわけがない」
→ 動機あり/アリバイ:自宅で飲酒していたと証言。誰も証明できず。
【容疑者2】羽澤 麻衣(はざわ まい)
礼一郎の養女。27歳。
華やかな雰囲気で、礼一郎の“秘蔵っ子”として可愛がられていた。
「父は最近、遺言書を書き直すと話していました。でも、何も知らないわ」
→ 遺産争いの中心/アリバイ:自室にいたと主張。使用人は聞いていない。
【容疑者3】桐野 慶(きりの けい)
羽澤家の専属医師。礼一郎の持病(心臓疾患)を診ていた。
「ここ数日、会長は不眠と不安を訴えていました。精神的に不安定でしたよ」
→ 薬の処方履歴が不自然/アリバイ:事件当時、別の患者宅を訪問していた(証言あり)
【容疑者4】家政婦 佐野 昌子
10年以上仕える忠実な家政婦。礼一郎からは信頼されていた。
「私が殺すなんてありえません。あの部屋には近づくなと言われてましたし」
→ 唯一、部屋の鍵を扱える立場/アリバイ:台所で翌日の朝食準備をしていた(証明なし)
刑事・笠井は現場の写真を何度も見返した。
● 密室
● ガラスが割れるような音
● 鍵のかかったドア
● 凶器が見つからない
● 天井の排気口…
「この密室、"破られていない"ことこそが逆におかしい」
彼の頭に、ある違和感が芽生えはじめていた。