冬の乾燥を
一際…感じる朝だった
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そんな日は珈琲の薫りが
一段と引き立つ
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その冴えた薫りを届けたくて
店の入り口を全開にする
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カウンター内は
デッキブラシでゴシゴシ洗いをするため
コンクリート剥き出しの床
さすがに寒い
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間なしに足下から冷気が入り
脚首が冷えてくる
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おはよう!ママ…と
モーニング珈琲とは無縁の冴子が
おー開けっ放しでサム…と
首を縮めながら
扉を閉めカウンターに腰掛けた
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朝っぱらから珍しいネ
早起きは三文の徳かい?と
あたしは皮肉った
…
まぁね…探し物していて
眠れなくなったから……と
…
声に張りがなかった
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元来…夜型のせいか青白く透けた肌質だが
今朝はその薄い皮膚が
一層…朝日に透けていた
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あたしは濃いめの珈琲を差出しながら
それで見つかったの?と聞いた
…
うん!夜中に主人が寝てから
懐中電灯を照らし車内を探したら
あったの
…
それで徹夜かい?
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冴子は返事もせずに
珈琲スプーンの背を使い器用に
ミルクを垂らしながら渦を作っていた
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美しい渦は暫く形をとどめていたが
何の躊躇もなく冴子は崩した
そして自慢する事も無く
苛立ちながら珈琲をかき混ぜた
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あたしは…その仕草が
何故か気になった
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ウチのヒト…嘘をつかせる人なのよね
あたしは嘘なんかつきたくないのに
自分が望む答えが欲しい人なのよ
…
だから…あたしは
つきたくない嘘を言って
喜ばせてあげるんだ…と
ひと口珈琲を啜った
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あたしは仕込みをしようと
キッチンに入った
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冴子は…その隙を見計らったように
…
ママごちそうさま…と
か細い声と500円玉を残して帰った
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扉は開けたままだった
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その数日後…冴子のご主人から
電話があった
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自ら…冴子が亡くなりました
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あたしは…訳を聞く気にもならなかった
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その夜…冴子と眺めた河にゆく
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二人で水面に映るネオンを見つめ
何度も悔し涙を流し
そして…大丈夫と言い合った日
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今度こそ嬉し涙を流そうって言ったのに
冴子アンタは最後まで
あたしに
悔し涙だけだったネ
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大バカ
と
言いながら
500玉を勢いよく投げた
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冴子の
大丈夫
と
言う声
が
聴こえた
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🔷All of you🔷
♡
まんまの心を晒せたら
どんなに幸せだろう
♡
晒し下手な人の口癖
大丈夫
♡
でもそれは
心
の
サイン
♡
《感謝》
♡とうこ♡
あっ🤭だいすきなひと
お昼抜いちゃダメ
ヨ
♡
寒い日こそ食べよう
ネ
♡
お願い
ヨ
♡