2021/06/21
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水蒸気を含む息苦しい
朝
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まだらな雲間から覗く
光
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僅かな晴れ間も貴重な
日
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横浜山手の空
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父と暮らす日々が
まさか…残り僅かと思わずに過ごす
それは…父も同様だった事だろう
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二十歳の時
あたしは…婚約破棄をした
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理由は…好きになっては…
いけない人を
好きになったからだ
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大学受験を終えた…その日
家に一本の電話があった
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電話の相手は大手造船会社の
部長だった
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当時…丸清は下請け会社
四天王の一社だった
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父も母も慌てて
訪ねて来る理由を考えていた
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部屋に居た…あたしは…母から
お茶を出すように言われた
そして…部長夫妻に
ご挨拶をしながら応対をした
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あたしは…幼い頃から
他人祖母に厳しく躾られていたので
臆することはない
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部長夫人が優しい笑顔を浮かべながら
あなたが…とうこさんね…と
話しかけられた
どうやら父は…あたしの写真を持ち歩き
ある日…部長に見せたようだ
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その二週間程…後に
部長夫妻の次男と会う事になった
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とりあえず学業優先となり
時々…映画に誘われたり
食事に行く程度の
お付き合いだった
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そして…父は…父なりに…あたしの
花嫁姿を描き関係各位にも悦びを
隠しきれずに仄かしていたようだ
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ある日…友達がアルバイトをする
レストランに行った
黒服の支配人を一目見た瞬間
なぜか?ピキッと…感じた
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好きになっては…いけない人を
好きになってしまった
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耐えきれなくなった…ある日
母の制止もきかずに
あたしは…父に話してしまった
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一升瓶を背負わされそうになった
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あたしは…裸足で逃げ
知り合いの店に隠れた
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翌日…家を出た
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そして…昼夜働いた
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その数年後…洲崎神社の祭礼日
母に帰るように言われ
父の余命が無い事を知らされた
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久方ぶりに会う父は…精気がなかった
そして…二人きりになった時
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俺が死んだら故郷の山形に埋めて欲しい
と…言われた
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それは…あたしに
託す
遺言だった
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あれから遥かな年月が過ぎ
あたしは…ふた親を見送り
世間の荒波を渡った
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あの日…父は…
いばら道を歩もうとしている
娘の揺るがない決意を見抜き
家を出した
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そして…あたしは…
覚悟して
家を出た
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もし…あの日
父と親子の訣別をしていなければ
今の…あたしは存在しなかった
ことだろう
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獅子の子落とし
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