ガラスの破片が
粉々に散り散りに飛び散る
それはまるで
鋭いカケラが
保たれていた何かを裂くような
悪意の爪だった
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サキの悲鳴が
泣き声混じりに変わり
とうこさん…
ごめんなさい…ごめんなさい
と…繰り返す
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大丈夫よ
と…あたしは…冷ややかな
視線を投げながら
破片を抜いた
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パックリ開いた傷口から
真っ赤な
血が
滴り落ち始めた
あたしは…拭おうともせずに
なすがままにしていた
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サキは呆けたように
その白い腕から流れる血を見ている
あたしは…更に腕を持ち上げ
仄暗いペンダントライトに照らした
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Mが駆け寄り
あたしの腕をハンカチで押さえた
そして…力無い声で
とうこ…赦してくれ
と…言った
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あたしは尖った視線を向け
誰を
と…言った
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♦︎
慌てた支配人が濡れタオルと
救急箱を持ってきた
Mが受け取り手当てをしようとしたが
あたしは…その行為を制止し
自分でキズ薬を勢いよく吹きかけた
傷口が酷く浸みたが
あたしは…顔色を変えなかった
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そして…
傷
と
心
を
強く
縛った
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♦︎
翌日…H社長の依頼通り
ホテルのクロークに向かう
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ホテル沿いの河は
新年の逞しい陽射しを浴び
運河を照らしている
汚泥を沈めている川底は隠れ
その虚構の姿だけを現していた
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新年を迎える
大きな門松が正面玄関に
飾られている
フロントには琴の音が雅やかに流れ
華やかな振袖姿を一段と
美しく魅せている
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騒めきと活気に溢れるフロントに
一つ紋の黒羽織を纏う長身のご婦人と
その背後に控えた更に背の高い
男性を見つける
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あたしは…柱の影から観察をする
H社長譲りのスリムな体型
お医者様の割には隙の無いセンス
ダークスーツが良く似合っている
と…妙に感心しながら眺めた
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男性が黒のチェスターコートを
預けながら
H社長のお姉さまに話しかけられ
こちらを
振り向き視線が絡んだ
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あたしは…凍りついた
その男性は…亡くなった筈の
初恋の人
だった
♦︎
ヨ
♡
あいしてる
も
だいすき
も
Kiss
も
♡
今日ある日に
《感謝》
♡とうこ♡
🔶999🔶