2019/11/15


雲の形が…ひとがた…に見える

あの雲は…他人祖母
お隣の雲は…他人祖父
後ろの雲は…他人母
その横の雲は…他人父

手前の雲は…あの方

真ん中の雲は…産みの母
そして…大きな雲は…父

あれから40年の歳月が流れた

ひとがたの雲が
あたし…を見守るように浮かぶ
横浜山手の空



40年前の今日
底冷えのする寒い朝だった

あたし・は…
バス便の電話も無い
小さなアパートに住んでいた
バス停を降り歩く道すがらに
キャベツ畑があり
その脇に公衆電話ボックスが
ポツンとあった

しかし父の万が一に備え
母には隣のアパートに住む
人の良いスーパー勤めの
女性宅の電話番号を教え
緊急連絡先にして頂いた




その
金魚鉢が割れる夢を見た
その水が…あたし・の唇を濡らした
ほの甘く
ほの温い
水を…あたし・は
ゆっくりと 
唇を舐める夢だった

その感触は…幼い頃にお気に入りだった
達磨型に梅の花が描かれた湯呑みに
ほんの少しお砂糖を入れたお白湯を
父の膝に抱かれて
匙から飲む感覚だった

若いとは言え…昼はOL
夜は関内のクラブ
昼夜…働き詰めだった

保険適用が無い…病院費
働いた事の無い…母
中学生になったばかりの…弟
造船業界が不振になり
借り入れた国民金融庫の返済
若い衆達の面倒先の手配

何重苦にも縛られた
ハタチ…そこそこの
小娘

倒れるまで!
働いてやろうじゃないか!
意気込みだけは…一丁前だった!

唇を濡らす雫が途切れ
喉が…カラカラになった
あたし・は…雫を求めて
宙に手を泳がせ…ジタバタした

いきなり膝が…ガクッと折れる感覚で
目が覚めた

安アパートの木製扉が
ドンドンと…叩かれていた
フラつきながら玄関に向かい
間延びした返事をした

「お母さんから電話で
直ぐ磯子の病院に来るように」と
隣アパートの女性Sさんが叫んでいた

慌てて扉を開けた…あたし・の目に
飛び込んできた光景は
物干し竿を持ち
眉間に皺を寄せ
必死に扉を叩く
心配そうなSさんの顔だった

あたし・は…万が一に備え
籐製の持ち手の付いた
籠に必要な品物を入れていた

何より大事な住所録
親戚や友人…会社関係
そして…葬儀の段取り
あたし・は…その住所録に
全ての情報を書き込んでいた


冷たい水飛沫をバシャバシャと
乱暴に顔に叩きつける

いよいよ
必要になる日が来た

妙に冷静になる
あたし・だった



人を思うと書いて
偲ぶ

霜月は…あたし・に…とって
偲ぶ月

今では…多方の方々が
浮かぶ雲になっている

見あげる空に
叶わぬ想いを描き
まなじり流れる涙を
そのままにしよう

いつか…涙は枯れ渇く事だろう

それを…希望と云う


久しぶりの…
洗い晒しの髪と!どスッピン!

化粧したくない
出掛けたくない
そんな気分です




美CANみなさま
凪の一日
穏やかな週末であります事

珠響《祈》