1、小問1について
(1)裁判所がすべき判決
XのYに対する200万円の甲債権についての貸金返還請求訴訟において、YがXに対する300万円の乙債権を自働債権として相殺の抗弁を主張した。裁判所は、両債権がいずれも存在し、相殺適状(民法505条1項)にあると心証を得た。これにより、甲債権と乙債権は対当額で相殺されるため、甲債権はすべて消滅する。
従って、裁判所は、請求棄却判決をすべきである。
(2)確定判決の既判力
本件訴訟の訴訟物は、XのYに対する消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金返還請求権(甲債権)である。確定判決は主文に包含するものに限り既判力を有するのが原則であり(民訴法114条1項)、本件では請求棄却判決が出されているから、口頭弁論終結時において甲債権が不存在であるという判断について既判力が生じる。
ただし、相殺の自働債権の存否に関する判断は、判決理由中の判断ではあるものの、相殺をもって対抗した額について既判力が生じる(同条2項)。これは自働債権の存否について紛争が蒸し返されることを防止するため、例外的に既判力が生じるものとされている。
従って、乙債権についても、相殺をもって対抗した額である200万円が口頭弁論終結時において不存在であることに既判力が生じる。なお、残りの100万円については存在、不存在のいずれも既判力が生じない。
2、小問2について
(1)裁判所がすべき判決
Xが弁済の再抗弁を提出し、裁判所は、甲債権の存在、乙債権が過去に存在したが全額弁済があったとの心証を得た。従って、Xの再抗弁が認められる結果、乙債権が存在しないため、Yの相殺の抗弁は認められないことになる。
よって、裁判所は請求認容判決をすべきである。
(2)確定判決の既判力
請求認容判決が出されていることから、口頭弁論終結時において甲債権が不存在であるという判断について既判力が生じる(114条1項)。
一方、自働債権については、弁済によりそもそも不存在であったため、相殺をもって対抗した額200万円が存在しなかった点についても既判力が生じる(同条2項)。なお、100万円部分については既判力が生じないのは前述の通りである。
3、小問3について
(1)裁判所がすべき判決
Xが訴え提起前に丙債権を自働債権として乙債権と相殺したという再抗弁を提出した。このような訴訟上の相殺の抗弁に対する訴訟外の相殺の再抗弁は、訴訟上の再抗弁とは異なり、仮定の上に仮定を積み重ねるものではなく、審理が不安定とはならないからである。
そして、裁判所は、甲債権の存在、乙債権と丙債権が存在して相殺適状にあったという心証を得た。Xの再抗弁が認められる結果、自働債権である乙債権が消滅したことになり、Yの相殺の抗弁は認められないことになる。
従って、裁判所は請求認容判決をすべきである。
(2)確定判決の既判力
請求認容判決が出されていることから、口頭弁論終結時において甲債権が存在するという判断について既判力が生じることになる(114条1項)。また、丙債権による相殺の再抗弁が容れられた結果、乙債権200万円がそもそも存在しなかったことについて既判力が生じる(同条2項)。
では、丙債権の不存在について114条2項に基づき既判力が生じるか問題となる。
同条の趣旨は、既判力を認めないと自働債権の存否について争いが蒸し返され、紛争解決が図れないため、例外的に既判力を認めることにある。この趣旨は、訴訟外の相殺の再抗弁の場合にも当てはまり、同条は相殺が抗弁として出された場合に限っていない。そのため、訴訟外相殺の再抗弁の場合にも適用されると考える。
よって、丙債権の不存在についても既判力が生じるものと解する。