『ひみつの犬』岩瀬成子 岩崎書店


 読み始めてからすぐに思った。


 作者は、どうしてこんなに子どものときのもどかしい気持ちを表現して、子どもの頃のわたしに戻らせて共感させるのだろう。と。


30年ほど前,30代の時初めて、この作者、岩瀬成子さんの物語を読んだときにも感じた。


 自分より年上なのにどうしてこんなに子どもの気持ちがわかるのだろうって。


 子どもゆえ、大人に感じさせられてしまう思い。子どもは,それを表現できずにいる。それをみごとに言葉にしてくれている。


 子どもは大人が思うほど、ちょろまかされないし、正しさや悪意やそういったものを見抜いて、ちゃんと考えている。


 主人公の5年生の羽美は、同じマンションに引っ越してきた一つ下の男の子の抱えている問題、マンションでは飼ってはいけない犬を誰かにもらってもらうこと。のために、一緒に行動する。そのうち、飼ってくれそうな大人、佐々村さんに頼まれごとをされるうち、佐々村さんは、近くで起きた不審な出来事の犯人かもと疑念を抱くようになる…


 羽美は自分が正しく解決しようとすればするほど正しさとは、人のためとは,と、壁にぶつかり、あがく。


 思いの外、問題は,こんがらがった結び目がするりとほどけるように解決していく。 


 それは、はっきりそうとは見えないけれど、

羽美が子どもながら、あがき、考え,動いたからこそ,解けていったという側面もある。


 羽美のこの体験は、歳を重ねて大の大人になった私も身につまされ,考えさせられる。

その心の機微を子どもにもよくわかるように子どもの気持ちに添って書くことのできる作者に敬意を表する。


 きっと子どもは子どもの気持ちに共感しながら、人と関わりの難しさの中で、何かを掴むだろう。

 大人が読んでも読み応えあり。