森田療法というのは、1919年に確立された、精神科医・森田正馬(もりたまさたけ)によって創始された日本独自の精神療法で、東洋的人間学を基盤としています。

対人恐怖や広場恐怖、パニック障害などの治療を対象としたもので、最近では適応障害な慢性的なうつ病、がん患者のメンタルケアなどにも有効であると注目されています。

不安を病気の原因として考えず、より良く生きたいという気持ち(性の欲望)と表裏一体と理解し、不安を観念的にやりくりしようとする姿勢から、あるがままに受け止める姿勢へと転換を図ることにより、症状からの脱却を目指すアプローチです。

以下は森田療法的カウンセリングの架空事例です。

人前で話すのが苦手だという人に対して、「あなたはなぜ人前で話すことが苦手なのか」と問いかけることから始めます。

「口ごもってしまって思うように話せないからです。みんなの期待に添えないからです。」
「期待に添いたいと言うことは、あなたは期待通りの事をしたいのですね」
「いや、期待通りにしたいけれど、こんなに口ごもってしまうとそれが出来ないです」
「私の経験から言えば、口ごもっても期待通りの事をしている人を知ってます」
「それは例外です」
「そうでもないです、それに、もっとたくさん知っている人は流暢に話ができても期待に応えれない人たちです。」
そこで更に踏み込んで「あなたが口ごもりを直せば期待に添えると思っているけど、それは甘い考えです」と指摘します。
そして、「口ごもりに関係なく、期待に添える努力をしない限りは期待に添えないです」と考えや行動を促していくのです。

「あなたの口ごもりは治せないけども、あなたが期待に添えるために、もうちょっと専門書を読んで知見を学ぶとか、その分野で経験を積むとか、その上で普段から自分の言葉で知識を話せるようにするとか、あなたが期待に添える方法であれば一緒に考えることができますよ」というのが森田療法的カウンセリングの一例となります。

最後に、森田療法の創始者である森田正馬さんの話を一つ。森田さんは、明治7年(1874年)に高知県の富家村で生まれました。小学校の教師をしていた厳格な父親と過保護な母親の基で育ちましたが、家にお金はない。医学を志していた森田さんは勝手に医者夫婦と養子縁組を結び、それを知った父親と衝突します。9歳の頃は村の寺で地獄絵図を見て、死の恐怖に襲われて夢にうなされたり、19歳の時にはパニック発作を経験。24歳の時に、縁組解消し、父親から学費を貰って東京帝国大学医学部に入学しますが、森田さんは慢性頭痛やそれに伴う集中困難、神経衰弱などの症状に悩まされ、服薬は行っていたが治療効果はなかった。そんな折、父親からの学資の送金が遅れた際に、森田さんは父親の嫌がらせと考え、いっそあてつけに死んでやろうと一切の治療をやめて、勉強に打ち込んだ、そうしたところ、長年苦しんでいた症状が一時的に和らぎ、思いの外好成績を得ることができた。この体験が、森田療法の礎となったと言われています。

森田療法は認知療法と比べられることがあるのですが、認知療法※1は上の例であれば「人前で口ごもりは気にしなくていいですよ」と言うものになります。森田療法は「人前で口ごもるのはそれでいいけど、それ以外で貢献できることは何かを考えた方がよいですよ」という発想※2になります。

尚、どちらの療法が良いかは、対象者次第になるようです。(比較は難しい)

最後まで読んでいただきありがとうございました。一つ参考になれば幸いです。

※1 認知療法
基本的な認知を変えて症状に対する見方を変える手法
※2 不問技法
森田療法では、一貫して不安や症状に対する態度に焦点を当て、症状そのものを細かく取り上げたり、その意味内容を探求することはない。
※ 参考文献
・適応障害の真実/和田秀樹/宝島社/2021年10月発行
・公認心理師技法ガイド/伊藤絵美・黒田美保・鈴木伸一・松田修/文光堂/2019年3月発行