ディスティミア※1型うつ病とは、「現代型」の新しい病型として精神科医の樽見伸によって名付けられたものです。


そもそもうつ病とは、操作的診断では2週間以上の期間生じる抑うつエピソードが存在し、その原因となる物質(薬やアルコールなど)や身体疾患の影響がなく、躁状態の経験がないものとされています。


では、何故うつ病になってしまうのでしょうか


うつ病の臨床研究で大事なテーマとされているのが、なりやすい素因だけではなく、なんらかの心理・社会的な負荷条件が加わって、それが処理できなかったからなってしまうと言われています。


その時代と社会の中で人びとが社会的・世俗的に共有している価値観と規範の、過剰な取り入れが失調を引き起こすのです。


かつて(戦前から高度成長時代)は、地域や職場などの共同的な世界への帰属意識があたり前でした。そのため、帰属する共同世界で求められる役割を果たして、周りから承認されることが価値とされ、同僚に迷惑をかけないなどの他者配慮性や勤勉性が規範とされていました。


戦後の高度成長の柱となったのは、このタイプの人びとだったのでしょう。しかし、それが過剰努力となれば、そこから失調となります。このうつ病はメランコリー※2親和型と呼ばれました。


しかし、90年代から2000年代に入ると、このうつ病の病型は姿を消して、新しい病型となります。社会に共有される価値観や規範が大きく変わったからだと言われています。


つまり、高度消費社会に入った。結果的に、人びとは共同的なものへの帰属や一体性よりも、個人性・私性のほうを大きな価値とするようになったのです。


社会性の倫理の方も、かつては「仕事で同僚に迷惑をかけない」というような役割的な配慮性だったのが、人に不快や嫌悪を与えないという、よりパーソナルで私的な配慮性に変わった。社会の価値観や規範が大きく変わったので、病像も変わったのです。


最近、プライベートで障がい福祉施設の人事をされている方から聞いた話です。


「学生時代から障がいのある方と一緒にキャンプしたり、旅行に行ったり、ボランティア活動に積極的だった若手が入社したが、職場で年が近いOJTトレーナーをつけていたものの1ヶ月足らずで辞めると言い出して。理由を聞くと、先輩職員が無神経で僕のやりたいことをさせてくれないから、だと言う。入ったばかりなのに休みがちとなり、数ヶ月後に退職。次はどうするの?と聞くと、当分仕事はせずのんびりします、とか。そういう若手が増えた。」と話がありまして。


ディスティミア型は、昔ながらの価値観から言えば「わがまま」に映るかも知れませんが、本人の悩みは深刻なものとなります。現代社会で多かれ少なかれ共有されている価値観や規範を自分のものとしているだけでそれが何故こうなってしまうのかという困惑と苦しみがあるからです。


補足ですが、メランコリー親和型は働き盛りの中高年に多いとされます。反対にディスティミア型は働きはじめの青年に多いものです。前者は失調後もなんとか仕事をがんばろうとするためケアが遅れて重症化しやすいとされますが、後者は失調が始まるとすぐ仕事の回避に向かうため症状レベルでは軽度のものが多い。一方で、早く病気離れして職場に戻りたいと内発的なモチベーションが弱いため、抗うつ薬の効き目もよくないとされています。


なにか一つ参考になれば幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。(了)


ディスティミア

思想などにおける考え方のこと


 メランコリー

気が塞ぐこと。憂鬱。


参考文献

・子どものための精神医学/滝川一廣/医学書院/201741日発行

・精神診療プラチナマニュアル第3版/松崎朝樹/メディカル・サイエンス・インターナショナル/2024328日発行


当事例は、個人情報保護のため、私の経験した複数の事例から重要な要素を抽出するなどして、架空事例となります。


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今日は朝から長女ちゃん(10才)と一緒にお留守番してまして。昼からどこか行かない?と声をかけると「電車にのりたい」と。駅まで自転車で行き、そこから電車で数駅。公園で遊んだ後、「かき氷食べたい」と希望があり食べてからの「クレーンゲーム」がしたいと希望があり、長女ちゃんが好きなちいかわの人形を取ってプレゼント。楽しんでくれていたみたいで良かったです☺️