論点をずらして相手の主張を退ける方法はいくつかあり、その中に「お前だって」論法があります。
 
例1:A「宿題の提出期限守れよ。先生だってお忙しいんだぞ」
   B「A、お前だってよく期日に遅れているだろ。他人のこと言えないよ」
 
 上記では、詰まる所Bの主張は「指摘しているA自身も提出期限を守らないことが多い。よって提出期限は守らなくてもよい」ということです。「Bが提出期限を守らない」という論点をAの落ち度に転嫁する、すなわち論点をずらすことで自身への指摘を回避しています。
 
例2:C「こら、図書館でガムを噛むな」
   D「他の人だってやってるだろ。ほら、あいつなんかジュース飲んでるぜ」
 
 例2でもCのDに対する「図書館でガムを噛んではならない」という指摘に対し、Dは「他の者も同じようなことをしている」と論点を他人に向けて発散し、「よってガムを噛んでもいい」と主張します。これは「お前だって」論法を応用したものとなります。
 
例3:E「F、お前は他人の揚げ足を取ってばかりいる卑劣な野郎だ」
   F「それはまさにお前のことじゃないか。ブーメランだ」
 
 このように、相手の主張はそのまま相手自身に還元するものであることをネットスラングで”ブーメラン”と呼びます。この場合、”ブーメラン”を指摘する側は「鏡に向かって言っているのか」と言って煽る場合もあります。
 ”同じ穴の貉”という主張をする「お前だって」論法とは異なり、「お前はそう言っているが私は違う」という意思が前提にあります。つまり、論点をずらすのではなく、相手の主張をそのまま相手自身に跳ね返している訳です。もし、本当にFの反論が正しいならばEの言い分が全面的に誤っていることになります。
 
 例1、2はそれ自体が正しい反論か否かは場合にもよります。何故なら意図的に論点をずらすことで自身の落ち度への指摘を回避しようとしており、問題自体は何も解決していないからです。逆に「他人のことを言えない」者が指摘をしたところでそれは説得力を欠き、”ダブルスタンダード”、”偽善者”等と罵られる場合もあります。
 そもそもの論点のすり替え自体が議論において正当な論法と言えるかは私には分かりません。しかし、理論的に正当性を証明することが出来るのならそちらの方が絶対によい、とは言えます。