暑い時と寒い時がかわるがわるやってきて、
服装に迷う日々です。
 
さて、炭手前が終わると懐石です。
 
懐石は食事のことです。
禅僧が空腹をしのぐために懐に温石を入れていた
という伝えに基づいて「懐石」と書き、
しのぐ程度の食事を出す
というのが千家流、わびさびの茶道の考え方ですが、
武家流の中には、「会席」と書き、
ふつうの食事として、たっぷり提供するという考え方もあります。
 
当時の身分社会では、家格と実情の兼ね合いもあります。
茶道が一般常識の嗜みとして用いられていた時代では、
公的な儀式としての数寄屋御成などもあり、
私的な茶事とはわけて考える必要があるでしょう。
もちろん、差は少なくなった現代でも、
例えば冠婚葬祭とそれ以外では
やりようが分かれているのはご存知のことと思います。
 
いずれにせよ、
湯が沸くまでのひととき、という意味合いと、
濃茶は強いので、お腹の調子を整えておく、という意味合いが
あります。

通常、月釜や、喫茶店で出て来るのは、
抹茶の中でも「薄茶」と呼ばれるもので、
薄茶用の抹茶3グラム程度を茶筌で攪拌したものです。
 こういうとなんだか風情もありませんが…
濃茶というのは、濃茶用の抹茶を用い、4~5グラムを
練って、とろっとしたクリーム状(よりは薄いけれども)
にしたものです。
ココアを練るようなものですが、日本ではあまり
練られたココアを飲む方もいらっしゃらないかもしれません。
上等な濃茶を、上手な方が練ると、
それはもう、甘く、濃く、ほのかに渋く、とても美味しいのです。
 
茶事のメインは、この「濃茶」です。
緑茶はそもそもカフェイン、カテキンとも多く含まれていますが、
濃茶は通常の薄茶の倍ですから、「強い」とういうのも
想像がつくことでしょう。

正式な茶事は「正午の茶事」と呼ばれるものをいい、
正午に席入りし、
お昼ご飯を頂いてからのティータイム
となりますので、ちょうど「時分どき」ということでもあります。
 
逆に、なんの約束もなく訪問するときに、
時分どき(食事時、おやつの時間)を狙って行くことは、
通常は、無作法にあたります。
無作法でも気にされない、親しい間柄でしたら別ですが、
親しき仲にも礼儀あり という言葉もあります。
 
よく、茶事七式と申しまして、
正午の茶事のほかに、時間順に
暁、朝、飯後(菓子)、夜咄、
不時、跡見
を云われます。
後の2つは、時間の定めのない茶事ですので、
食事についても決まりはありません。
ほかは、時分刻(じぶんどき)となりますので、
飯後の茶事以外は、何かしら食事が付きます。
飯後の茶事は、別名菓子の茶事と言われるように、
おやつの時間ですね。
 
食事は、「懐石」または「会席」などと呼ばれます。
一汁三菜が基本で、さらに、預け鉢、強肴などが加えられます。
お酒ももちろん出ます。
お酒は社交の潤滑油として昔から用いられておりますので、
途中では、歓談しつつ、主客でお酒を注ぎあったりする場面もあります。
これは、礼儀作法としての一面もありますし、
会を盛り上げる一つの道具でもあります。
 
食を一緒にするということを
同じ釜の飯を食う
とも言いますが、
根源的な信頼関係の元に成り立つものです。
食事の場面での作法、ふるまい、マナーなど
一緒にいて気持ちよい方かどうか、は
人間関係の中でも重要なところではないでしょうか。

茶事で出てくる食事は基本的に
和食で、お箸を使いますが、
メニューによっては、洋食も中華も可能です。
その場合は、場所を移動したり、
ナイフやフォークの場面も出て来るかもしれませんね。
 
お箸の使い方、皿・鉢の取り回し、
器の取り方、食べ方など、
全て日常の食事で身に付けているもの
のはずですが、現代ではなかなかないのでしょうか。
グルメ番組も多いのに、きれいに食べる方はめったに観ませんね。
 
献立は、
向付 両椀の向こうに置いてあるので。
 酒の肴なので、酒が出るまでは手を付けません。
汁 基本は白味噌の味噌汁です。
飯 基本は白いご飯。
焼物 基本は白身魚ですが、鳥や四つ足も可能。
煮物椀(椀) 和食のメインディッシュ
ここまでで一汁三菜です。
ほかに、預け鉢、強肴などの鉢や皿が来ることがあります。
酒のふるまいとして、八寸に山のもの、海のものを盛って
供されます。
箸洗い、または 小吸い物
湯桶、香の物
で締めとなります。
途中で汁は1回、ご飯は2回、お代わりが出ますが、
これらの順番や、回数は、流儀や茶事の趣向によって異なることがあります。
飯は、炊き立てすぐから、蒸らし、湯漬けまで頂くので、
白米のすべてを味わうのが茶事の懐石や
という方もおられます。
 

集中して黙々と食するのもよいですが、

お酒も出て来る皆との食事は
和やかに歓談しつつ、
お酒を注しつ注されつ
で、茶事のテーマや、メインの後座(濃茶)を予想したりしながら
楽しむ時間です。
もちろん、料理についても、材料、調理法など
気になったら亭主にどんどん聞いてください。
喜んで答えてくれるはずです。
 
食事がすめば一旦休憩。
次回は中立です。

       桂月庵 記

 

 

<今月のまとめ>

食事は和やかに、歓談しつつ

食事は、マナーを守って

茶事の食事である懐石は、メインの濃茶への前座