能登半島からの地震はまだまだ続くようで、
被災地の皆様の無事が案じられるところです。
 
 
さて、生活文化は、つまり、日常生活の中の文化です。
基本の衣食住と年中行事・人生儀礼があります。
いわゆる日常茶飯事であるケと、ハレの冠婚葬祭。
生き残るための最低限の生存条件ではなく、
健康で文化的な最低限度、以上の生活のほうです。
茶道が総合文化と言われるのは、
衣食住すべてがそこに入り、
自分と客(主客)をもてなすための基本が入っているからです。
日常生活の中で実践すれば、
健康で文化的な生活が無理なく続けられる
のではないでしょうか。
 
お稽古はそのためのアレコレを学ぶ場所で、
学んだことを実践していくと、
無理なく、無駄なく、無茶をせず、
自然に、まるで呼吸するがごとくに、
所作や考えが洗練されていき
日常の生活が豊かになっていきます。
 
しかし、これらの所作は、
家庭で躾がされていたり、
生活習慣が確立していたりする方には、
わざわざお稽古しなくても、
無意識に身に付いていることが多いのです。
生まれたときからの家庭環境は影響が強いものです。
逆に、改めて意識すると、
変な癖や、無駄な動きが
身に付いてしまっていることに
気づくかもしれません。
 
 
茶道では、「茶事」がその学びの集大成のひとつとされます。
これから、茶事の流れに沿って、
生活の中の習慣や作法、ふるまいなどを
描いていくことにします。
 
 
まず、茶事とは何か。
 
茶の事 と書くように、
お茶を以て人を招く・招かれる会で、
もっとも正式で標準的なものを、
正午の茶事
と呼びます。
正午に席入りするからです。
「席入り」の「席」は、茶事の会場に到着する時間ではなく、
茶事が行われる部屋のことを指します。
 
茶事当日の流れは、
待合
席入
初座:初炭、懐石
中立
後座:濃茶、後炭、薄茶
退席
となります。
 
茶事当日の前には、
亭主から客への案内
客から亭主への前礼(または返信)
後日は、
客から亭主への後礼(礼状)
があります。
ちなみに最上の御礼は、
茶事に招き返す事
とされています。
 
招いたり、招かれたり、の
親しい方同士の交流の場が茶事なのです。
 
この場合の「茶」は、もちろん抹茶なのですが、
現代での「濃茶」のことです。
お抹茶の中でも上等なものを用い、
クリーム状に練った濃い緑色の液体を
一服します。
 
この「服」という単位は、お薬を服用するという場合の
「服」と同じで、
元々、お茶がお薬としてもたらされたことに由来します。
 
 
では、元々って、いつでしょうか?
 
茶の始まりは、千利休
…ではありません。
千利休は茶道の大成者であり、千家流の祖ですが、
その元になる茶は、日本の歴史をさかのぼれば
奈良時代に既にもたらされたとされています。
 *諸説あります。
ただ、その後、茶を服する文化はすたれ、
鎌倉時代に
『喫茶養生記』という書籍が
栄西禅師によって、三代将軍実朝へ献上された頃、
また復活してきました。
 
茶道と直結した始まりは、
室町時代の15代将軍義政公の時代
東山文化と呼ばれる時代です。
  *現在は、義満時代の北山文化とまとめて「室町文化」と総称されます。
侘茶の創始者とされる 珠光
華道の祖 池坊専慶
我らが志野流の流祖 志野宗信
そのほか、盆庭の相阿弥、金工、漆工、
絵画では、狩野派の祖 狩野正信、土佐派の祖 土佐光信、水墨画の雪舟
全てこの時代です。
 
建築様式としても、室町時代の書院造が
現代の数寄屋造や、和風建築の直接の祖と言えるでしょう。
アニメの宮崎駿監督も、
鎌倉時代と室町時代で、日本人の精神が一変したのではないか
とおっしゃっています。
 
つまり、この室町時代の文化が、
現代に続く和文化の基礎となっているのです。
 
ちなみに最古の茶室は、義政公の作った
銀閣寺の同仁斎という説もあります。
 
 
さて、茶事をどこで行うか、といえば、
基本的に日本家屋の室内です。
ということは、茶事に参加するならば、
会場である、伝統的な日本家屋でのふるまいが、
身に付いている必要がある
ということになります。
 
歩く、座る
襖を開ける、閉める
玄関での履物の着脱
礼(お辞儀)の仕方
食事のマナー
お菓子やお茶の頂き方
別段、特別なことをするわけではありません。
もちろん、畳に上がるという文化がない他国から見れば、
何もかもが特別に見えるでしょう。
お箸を使わない国からすれば、持ち方もわかりません。
しかし、日本で暮らして、和文化のことを
少しでも知っているなら、
これらのもろもろが日常生活の一部であることは
ご存知でしょう。
 
 
庭や玄関は、土足ですが、

上にあがると、つまり室内に入ると、

板間(廊下など、つまりフローリング)と
座敷に分かれます。
 
「座敷」は、今でこそ様々な言い回しがありますが、
基本的な建築の意味からすると、
「座」つまり畳を「敷」き詰めた部屋のことです。
 
この場合の畳は、縁(へり)のある畳のことで、
琉球畳と称される、縁なしの、正方形のものではありませんが、
座を敷き詰めるという意味からすれば、琉球畳のように縁がなくとも
部屋の中を敷き詰めれば、
「座敷」といえるでしょう。
そして、「座」を与えるのは、特別なことでしたので、
「座敷」がすなわち「客室」
客を迎える部屋とされることも多かったのです。
 
今では「座敷」というよりは、
「洋室」に対する「和室」という言い方を
することが多いですね。
座敷には、床の間や違い棚などが付いていることも多いですが、
そういったものを作らなくなったからでしょうか。
それでも、現代でも、「和室」を作るのに、
いざというときの客間
を理由に挙げる方も多いですね。
 
なので、通常、初めてのお稽古では、まず、
座敷の出入、座敷の中でのふるまい、歩き方などを
基本的な所作のひとつとして学びます。
例えば、縁を踏まない、敷居を踏まない、
出入するときは、立ったままではなく、

一旦坐ってから出入する、

襖・障子の開け閉めの仕方など。

座敷の出入の前に、玄関からの出入もあります。
これらは全て、かつて日本家屋が当たり前だった時代には、
自然と身に付いていたものですが、
今は和室は学校や公民館、旅館でしか見たことがない
という方もおられますし、
和室を洋室として用いている家庭も多くみられます。
 
ちなみに、西洋には西洋の作法、中華には中華の作法があるものですが、
日本化された洋室でのふるまいは、各家庭ごとに違っているようです。
各家庭に応じて最適化されるのですから、当然といえますが、
他の家庭にお招きされたり、外に出たとき、
地域のルール、地方のルール、国のルール、世界のルール
といった基本を知っておいたほうが、応用も効いて、よいかと思います。
現代は多様性が尊重されますし、
個々の生まれ育った環境も、場所も、様々ですので、
同じ日本人だから、と考えるのではなく、
自分の常識は相手の非常識と考えて
対応するのがちょうどよろしいです。
 
そもそも、
相手のルール、文化や作法を学ぼうという姿勢は、
相手を尊重し、友好的な関係でいようとする
気持ちの現れでもあります。
そんなものは気にしない、自分は自分のやりたいようにやる、
という向きもありますが、
相手から見てどちらが印象が良いかなど、言うまでもないことでしょう。
 
礼儀作法は、人間関係の潤滑油
と言われますが、
それは、お互いの間で不要な諍いを起こさないためのものであり、
お互いに同じ時間と空間を共有するときの嗜みであります。
それができてこそ、社会人といえるのではないでしょうか。

 

 

さて、避難所におられましたら、よりストレスがたまりやすい
ことでしょう。
ぜひ、潤滑油を活用なさってください。
災害に遭われた方には、一刻も早い
日常再開をお祈り申し上げます。
皆様も、健康第一、心身ともにお気をつけて、
寒さに負けず過ごされますように。

       桂月庵 記

 

 

<今月のまとめ>

生活文化とは、日常茶飯事の衣食住(ケ)と冠婚葬祭(ハレ)の文化を合わせたものである。

その中には、年中行事と人生儀礼が含まれる。

礼儀作法は人間関係の潤滑油である。