【タイトル】
風の子でいたいね
【アーティスト】
キンモクセイ
【リリース】
2003/10/22
【トラック】
[1]風の子
[2]愛の食事
[3]真っ白
[4]人とコウモリ
[5]Lemonade
[6]恋人なくした
[7]日曜日のよる
[8]パリジェンヌ
[9]香港計画
[10]車線変更25時
[11]悲しみ草
[12]Pocket Song
[13]同じ空の下で
〈付録〉追伸のテーマ ~さらばキンモクセイ

【総合評価】3.8


 [キンモクセイ]に関しては
評94『ベスト・コンディション』(ベスト)
評95『音楽は素晴らしいものだ』(1st)
評96『NICE BEAT』  (3rd)

と作品を取り上げてきた。今回の『風の子でいたいね』は2ndアルバムであり、取り上げたときにまだ手元に無かった「取りこぼし」。補填のような形で当初取り上げるつもりだった。


 しかしこのアルバムがとんでもなく《ヤベエ》作品であると気付く。稚拙な表現になっていることはお許し戴きたいが、とにかく驚愕の一言。

〈そんなに凄い作品なのか〉→とにかくヤベエ
〈最高のクオリティなのか〉→とにかくヤベエ
〈そこまでヤバイのか〉→ヤバイよりもヤッベエ

このように形容せざるを得ない作品なのである。[キンモクセイ]を贔屓している事も潜在的な要因としてあるのかもしれないが、他のオリジナルアルバムはおろか『ベスト・コンディション』でもここまでの反応は無かったと予め断っておく。


  まず入りがかなり突っ込んでいる。勢いがあることは良いが、急にテンポを落としたり落ち着いた曲調になって尻つぼみになりはしないかと危惧する。しかし3曲目の『真っ白』は序盤からテンポをやや下げたものの、それこそイギリスのポップロックのような曲調でその安定感が良い。

 『人とコウモリ』はシングル曲でありその妖しい雰囲気は既にベストアルバムで聴いているので驚くこともないが、次の『Lemonade』がテンポをそのままに軽快に転じている。それでもって普通にメインヴォーカルが替わっていたりもするが、そこも他のオリジナルアルバムで学習済。

 そして『恋人なくした』。ここでのバラードは間違ってはいない、入れる流れとしてはむしろ完璧だったと思う。悔やまれるとするならば『日曜日のよる』で同じような曲調を続けたこと、個人的にと前置きするがこれは落ち着きすぎた。


 その後は「パリ」や「香港」へとアルバムの流れ自体も何処かへ行ってしまう。[キンモクセイ]は真面目一本路線ではないのでその辺を受け入れつつ聴いていく必要があるが、無論この後の流れ次第では評価が下がりそこそこ良い程度のアルバム作品にとどまる恐れもあった。


 そこをシングル曲『車線変更25時』で引き締め、『悲しみ草』で更に展開した点は見事。『悲しみ草』と一見落ち着いた曲調のタイトルに見えなくもないが、MVでガンガンに弾きならすメンバーが思い浮かぶような躍動感がある。一番の評価はこの曲。

 『Pocket Song』で締めの雰囲気を出しておきながら『同じ空の下で』というシングル曲を後に置くあたり普通に終わらせる気はない。


 最後に〈付録〉。実際再生してみると14曲目としてきちんとカウントしているが、開始から約40秒経つまで何の演奏も始まらない。すると哀愁漂う音楽が流れ始めるなりアルバム制作の経緯が語られ、レコーディングスタッフが読み上げられる。そして、
《このアルバムがあなたの人生に欠かせない一枚になることを心から祈っております》
とのメッセージが送られ次回作品の予告をして終わる。説明の中で「全14曲」とはっきり言っているのでここからも普通に楽曲としてカウントしているのが判る。

 因みに予告では次回作品を
『炎の3rdアルバム「さらばキンモクセイ」(仮)』
としているが、冒頭で紹介したように3rdアルバムは『NICE BEAT』であり内容にメラメラ要素は全くもって無かった。


 通しで聴いてこんな凝縮されたアルバムがあったのかと多少興奮したが、[キンモクセイ]作品はリリースしていくごとにオリコン順位が下がっていった事を思い出す。1stアルバムの『二人のアカボシ』『さらば』『七色の風』というシングル曲に比べて今回の『車線変更25時』『同じ空の下で』『人とコウモリ』というシングル曲では毛色が違う。いきなりこの作品を聴いても正直長々と評を述べたその熱は伝わりきらないのではと悲嘆にくれた。


 とにかく最低限『ベスト・コンディション』は先に聴いてもらわなければ始まらない。オリジナルアルバムをその後に何処から聴いてもらってもキンモクセイの音楽は感じ取れると思う。何なら解散した今でもメンバーが音楽活動を続けているのでそこからでも良い。


 本格派であるほど、実力派であるほど、「超」がつくスター性に辿り着けなかったグループやソロシンガーは哀しいかなフェードアウトしていって一部の人間の記憶にしか残らない。そしてその事実を悲しむのは言わずもがなその記憶が残っている人間に他ならない。(完)