【タイトル】
スペシャル・セレクション 1
【アーティスト】
菊池 桃子
【リリース】
1993/11/1
【トラック】
[1]青春のいじわる
[2]SUMMER EYES
[3]雪に書いたLOVE LETTER
[4]卒業 -GRADUATION-
[5]BOYのテーマ
[6]I WILL
[7]もう逢えないかもしれない
[8]Broken Sunset
[9]EDEN OF GALAXY
[10]夏色片想い
[11]SAY YES!
[12]Ivory Coast
[13]アイドルを探せ
[14]Nile in Blue
[15]ガラスの草原

【総合評価】3.5


 菊池桃子作品集であると共にここに収録されている楽曲全ての作曲・編曲を手掛けている林哲司作品集ともいえる。尚シングルA面以外は[6][9][12]の3曲。


 歌手としての活動時期はおニャン子クラブが跋扈、常にリリースする曲が上位を占め他のアーティストを寄せ付けなかった。そんな中で菊池桃子のシングル曲はオリコン1位を獲得し続けた、実に連続7作。

 しかし、よくよく考えればおニャン子クラブの作詞を手掛けていた秋元康氏は菊池桃子の作詞も多く手掛けており結局は一人勝ち。競えば競うほど本人へのリターンが増えるというカラクリ。今も既存のグループに公式ライバルなどと銘打って新しいグループを作っては両方の作詞を手掛け益としている。本人が精力的に活動しているだけで、そのうえ誰も困っていないのだから良いのではないかとも言われているが果たして本当に誰も困っていないのだろうか。


 そんな事はどうでも良いとして、今回の選択は「冬」と「卒業」シーズンの曲が両方入っているため。『雪に書いたLOVE LETTER』は聴けば分かるが季節柄はクリスマスで少し過ぎた。『卒業 -GRADUATION-』は同時代のアイドルも卒業ソングを皆リリースしており菊池桃子が群を抜いて良いという話でもない。その点に関してはどうやら林氏の手掛ける作曲が自分とは比較的合うらしい、出演しているラジオ番組でも手掛けた楽曲に対し訥々と振り返るところが良い。


 林哲司の作曲は編曲とともに実に多彩、一方で菊池桃子の歌唱はと言うと…まず端的に歌い分けがほぼ無い。加えて語尾の伸ばしが「てー」ではなく「てぇー」、「のー」は「のぉー」というように事あるごとに小文字が入るように聴こえる歌唱。そして真似されやすいあの声色、今であれば好き嫌いが二分してしまいそうである。
 それでも絶大な支持を受けていたのはアイドルもソロが多かった「時代背景」と菊池桃子という「キャラクター」がマッチしたある種の『特権』だろう。


 歌手活動としてもう一つのキーワードが「ラ・ムー」。ソロ時代と違うロックバンドのスタンスで結成に至ったようだが、先程述べたように本人の歌唱に変化が無いので聴く側は釈然とせず。結局僅かな活動期間に終わり興行的に失敗とされ本人は役者業にシフトした。
 ただ、何曲か聴いた個人評としては一般に言うほど評価の低いものではない。歌唱の無変化は想定の範囲内とも言えるし、本人は至って真面目である。それを色物扱いする方が野暮に思える、歌手活動に早めに踏ん切りを付けさせた事は怪我の功名と言えなくもないが。



 今や傑出したアイドル性を持つソロ歌手は存在として居ないに等しい。昔であれば一つの周期のようなものがあって再び勃興するものではあったが、今やグループが多々出現した影響でアイドル自体は普遍的になった。秘匿出来る情報も「モノの進化」が進んだせいで到るところに網が張られ、秘匿する側も厳格にはしなくなった。もはや神秘性もへったくれも無い。自分は80年代の熱狂など全く知らぬ世代ではあるが、それでも何処か寂しさがある。(完)