しらざりしおほ海のはらにながれきて ひとかたにやはものはかなしき

紫式部


『源氏物語』(須磨)所収。源氏が一時失脚して須磨に都落ちしていたとき、ミソギをすれば運の開ける日だと聞いて、旅の陰陽師におこなわせたおりの歌。ただし、人形(ひとがた)という紙に身のケガレを移して流したようなので、今日でいうハラエにむしろ近かろう。つまりは、その人形に寄せて自分の身を嘆いた歌である。なお、源氏物語は大長編なので、この須磨や次の明石巻で飽きる人が多い。これを俗に「須磨源氏」「明石源氏」という。


●参考訳
今まで知らなかった大海のほとりまで流れてきて、人形にケガレを移している。その人形の流れて行く末を思うと、ひとかたならぬ物悲しさに襲われる。