天皇御製歌


0025み吉野の 耳我(みみが)の嶺(みね)に 時なくそ 雪は降りける 間(ま)なくそ 雨は零(ふ)りける その雪の 時なきが如(ごと) その雨の 間なきが如(ごと) 隈(くま)もおちず 思ひつつぞ来(こ)し その山道を
天武天皇


【折口信夫訳】吉野の金峰山には、何時といふことなく、雪が降つてゐることだ。やむ間もなく、雨が降つてゐることだ。その雪が時をきめず降る樣に、その雨が間斷なく降つてゐる樣に、その山道をば、どの辻でも、この辻でも、きつとふりかへつては、お前のことを思ひながら、やつて來たことだ。私は今さういふ處に來てゐる。


【愚訳案】

吉野の耳我山に
雪が降りつづけるように
雨が降りつづけるように
ずっと
この山道を歩いている間じゅう
振り返っては
あなたを思い起しつつ
やって来たのだ



0026み吉野の 耳我の山に 時じくそ 雪は降るといふ 間(ま)なくそ 雨は零(ふ)るといふ その雪の 時じきが如 その雨の 間なきが如 隈(くま)もおちず 思ひつつぞ来し その山道を
天武天皇


右は句々相換(かは)れり。因りてここに重ねて載す。


【折口信夫訳】なし


【愚訳案】

吉野の耳我山には
常に雪が降り いつも雨が降るという
その雪や雨のように
この山道を歩いている間じゅう
振り返っては
あなたを思い起しつつ
やって来たのだ



●原文
天皇御製歌
三吉野之 耳我嶺爾 時無曽 雪者落家留 間無曽 雨者零計類 其雪乃 時無如 其雨乃 間無如 隈毛不落 思乍叙来 其山道乎


或本歌
三芳野之 耳我山爾 時自久曽 雪者落等言 無間曽 雨者落等言 其雪 不時如 其雨 無間如 隈毛不墮 思乍叙来 其山道乎


右句々相換。因此重載焉。