2008年9月10日第1回期日 意見陳述 (原告 Y) | 新宿区ホームレス生活保護裁判を支える会blog

2008年9月10日第1回期日 意見陳述 (原告 Y)

原告  Y
被告  新宿区
                    意見陳述


平成20年9月10日
東京地方裁判所民事 部 御中


                        意見陳述者 原 告  Y    


原告の意見陳述要旨は次のとおりである。


 私は、6月2日から新宿福祉事務所へ3度生活保護の申請を行い、3度却下されました。その理由は、稼働能力を活用しないこと、自立支援施策を利用しなかったこととされています。
 私は以前自立支援施策の自立支援センター葛飾寮に入所していたことがあります。このとき、仕事を途中で辞めてしまったことが問われているようです。
 過去に仕事を辞めたこと、これは事実です。私にも誰にも最早変えることができません。この事実は、私がかつて、そして、今も働く意思がないと解釈されるものなのでしょうか。そして、この事実は、如何に評価するにしても、いつまでも私を拘束し続けるのでしょうか。

 新宿では、都庁近くの駅への地下通路の入り口近くの路上が、私の居場所でした。私が新宿で路上生活をしていたのは5月ですが、晴れていても夜になると上着を着ても凍えるような寒さです。少しうとうととしても、寒さのあまりに何度も目が覚めてしまいます。路上に身を横たえることができるのは、深夜1時過ぎです。それまでは、非常に多くの方が帰宅のために、この通路を行き交うので、横になることが出来ないのです。
 また、それ以前の上野での路上生活の経験で既に分かっていましたが、やはり、私たちのような者に対して暴言を吐いて絡んだりする人もいて、おそろしい思いをすることもあります。しかし、それでも、雨を防ぐことができる場所は限られています。ですから、せめて雨から、身を守るためには、そこにいるしかありませんでした。
 このような状態から、頑張れば何とかできるはずといわれても、具体的に、どこで、頑張ればいいのでしょうか。

自立支援センターで頑張れば何とかなるといわれても、原則2ヶ月、最長でも4ヶ月の期間に生活保護を受けず、独力で仕事を見つけ、転宅する費用も捻出する、しかも、連日10時間を超える勤務へ10人を超える人間と同じ部屋で過ごしながら、通い続けることに、私の身体は対応できませんでした。社会保険もない会社での勤務で、病気になっても病院にかかることもできませんでした。

 福祉事務所の職員からは、路上生活は自ら進んで招いた結果だ、と何度も言われました。この制度を利用し、運良く自立するという「結果」を出せない者には、生活保護を適用しないという制裁があるのでしょうか。

私は、これまで職を転々としてきました。勤務先は、必要な時だけ私を使い、必要がなくなると、自由に取り替えられる存在とみなして、私が働き、生活の糧を得る機会を、躊躇無く奪ってきました。

 生活保護は、最低生活は国が国民に対して保障するという制度なのだと聞いています。ホームレスでない方は、職を失った場合、再度頑張って自分の力で生きていく、その「前提」(安定した住居、食事)を生活保護により維持することができます。一方ホームレスは、最低生活以下の場所にいながら、頑張っていくその前提を、自立支援センターで、自分で作ることが求められることになっています。なぜ、ホームレスという住居すら失った立場に陥った者は、ホームレスであるというその一点だけで、このように異なる扱いをされなくてはならないのでしょう。たまたま、生活保護を申請した時点において住居を失っていたというその一面だけで、私自身の全てが判断されなくてはならないのでしょうか。

 自分自身先ほどホームレスという言葉を使いましたが、一言でホームレスといっても、いろいろな方がいます。それぞれに異なる事情や思いがあります。私も、そして、私以外のホームレスの方もおそらく全て、以前はみなさんと同じように、仕事をして幸せに生活することを願い生活していました。そして、私自身のその思いは、これまでも、今も全く変わりはないのです。
 生活保護だけで生活を営みたいとは思っていません。これは、6月2日の段階、それ以前の段階からずっと思っていることです。ただ、路上で生活しながら、仕事を見つけることができないのです。

 現在、板橋区で生活保護の決定があり、ようやく安定して生活できる場所、再度自分の力で生活を立て直すための「前提」を得ました。

なぜ、法が定めた制度を私が利用し、私に生活を立て直していく機会を与えようとはしなかったのか、そのことの是非を、名前のない単なる「ホームレス」という呼称ではない、「○○○○」という一人の人間として、私は問いたいのです。そして、この問いが、声をあげることもできず、路上で苦しんでいる、一人一人の「ホームレス」に共通する思いであることを知ってください。