2008年9月10日第1回期日 意見陳述 (弁護士戸舘圭之) | 新宿区ホームレス生活保護裁判を支える会blog

2008年9月10日第1回期日 意見陳述 (弁護士戸舘圭之)

平成20年(行ウ)第415号 生活保護開始申請却下取消等請求事件



原告 Y



被告 新宿区



                   意見陳述要旨







2008年(平成20年)9月10日



東京地方裁判所民事第2部 御中



                              原告訴訟代理人 弁護士 戸舘 圭之







本件の審理に先立ち原告訴訟代理人弁護士戸舘から、裁判所に対し、意見を申し上げます。



本件は、ホームレスであった原告Yさんに対して生活保護を行うことを認めなかった新宿区福祉事務所の違憲性、違法性を問う裁判です。



 日本国憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と、すべての人々に対して、いわゆる生存権を保障しています。



 これを受けた生活保護法第1条は「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と生活保護法の目的を高らかにうたっています。



 そして、生活保護法第2条は、無差別平等の原則を規定しています。この無差別平等原則により、生活困窮状態にあるすべての人々が、差別されることなく、健康で文化的な最低限度の生活を営むことが可能となっているのです。



 



 原告のYさんは、今年の5月ころから、新宿近辺で路上生活を余儀なくされていました。横山さんは、なんとか生活を立て直した上で、働く場所を見つけて自立したいと考えていました。しかし、住所もなく日々生きていくことに精一杯の路上生活者が就職先を見つけることは簡単なことではありません。



 新宿区福祉事務所は、原告のYさんに対して、権利であるはずの生活保護の受給を認めませんでした。「稼働能力を活用していない。」というのがその理由です。



 しかしながら、ホームレス状態を余儀なくされている人々は、稼働能力を活用する前提を欠いています。そもそも、野宿状態で生活している人を、きょうすぐに雇ってくれる会社がどこにあるのでしょうか?ホームレスが稼働能力を活用する場はそもそも存在しないのです。



 稼働能力活用要件を無制限に適用することで多くのホームレスの方への生活保護の適用が拒まれているという実態があります。



 本件の審理にあたり原告代理人らは、稼働能力の活用についての正しい解釈を提示した上で、稼働能力活用要件がホームレスへの生活保護の適用を否定する理由にはなり得ないことを明らかにしていきます。







 結局のところ、Yさんは、緊急一時保護センターなどの施設への入所を拒否したことから生活保護の申請を却下されてしまったのです。



しかし、生活保護法上、居宅での保護が大原則です(法30条1項)。ホームレスには、居宅保護の原則は適用されないのでしょうか?



 ましてや緊急一時保護センターは生活保護法上の施設ではありませんし、このような施設の利用が生活保護に優先することもあり得ません。







「ホームレスであっても、人間らしい生活をする権利はある。」のです。



 



 どんな人であっても、雨や風をしのぐことができ、プライバシーの守られた住居で人間らしい生活をする権利があります。



 働いて、きちんとした生活を送るためにも、安定した住居に住むということは不可欠の前提なのです。



 新宿区の考え方は、ホームレスに対しては他の人より劣った取扱いをしてもかまわないという「劣等処遇」を容認するものであり、到底許されるものではありません。







新宿区の運用は、東京都内にある他の多くの福祉事務所の運用とも異なっています。



 現に、Z区福祉事務所は、8月23日、緊急性が認められるということから、申請したその日に、原告のYさんに対して生活保護開始決定を行いました。Yさんは現在Z区内のアパートで自立に向けた生活を歩み始めています。



 板橋区にできたことが、どうして新宿区ではできないのでしょうか。



 現在、Z区に限らず多くの福祉事務所において、法の原則にしたがって、ホームレスの方への生活保護を実施しています。新宿区だけが特殊だといっても言い過ぎではありません。







 人間、誰もが、何かの拍子で職を失ったり、働けなくなって生活困窮状態に陥り、野宿生活を余儀なくされることはあります。われわれ弁護士、裁判官も、例外ではありません。そのようなときに、最後のセーフティーネットとして機能するのが生活保護なのです。



 貧困は自己責任ではありません。



 貧困状態にある人を救済するのは国家の責務です。



 原告代理人らは、今後、新宿区の運用の違法性を明らかにしていくための主張、立証を行っていく予定です。



 ホームレス状態を余儀なくされている全国の多くの人々及び支援の人々が、本件裁判を注目しています。



 裁判所におかれましては、「ホームレス」に対する偏見をもつことなく、憲法と法律にしたがった真摯な姿勢で審理に臨まれるよう代理人を代表してお願い申し上げます。



以上