映画にしても小説にしても詩にしても音楽にしても、大学の講義にしても、どのような内容であれ、良識ぶった人々は過激であること、難解であること、非常識であることを嫌う。

特殊であること、独りよがりであることを非難する。

「みんなにわかりやすく」「みんな平等に」という美名が独善的な支配者になっていて、表現者を陵辱し、平然とけがす。


「すみませーん、ここ、うちの読者(学生、オーディエンス、視聴者)にはむずかしくてわからないと思うんですよ。書き直してもらえますか?」

これ、「検閲」「弾圧」ではないといいきれるだろうか?


わかりにくい、むずかしいという判断こそ、世の中の書物を、見えない禁書に追い込んできたテロルである。



(松岡正剛『千夜千冊エディション 読書の裏側』角川文庫、2022年、第三章より)



おわり