スプリングキャンプの後、僕は2Aチームに所属していましたが、そこで対戦相手も含めて日本人プレーヤーをベンチから見ることはありませんでした。

 

しかし7月初旬から合流した3Aチームでは、日本人プレーヤーの有原航平投手と一緒です。

前回の日記にも書きましたが、有原とはキャンプが終わった時に、「7月に僕が3A合流する時にはメジャーに上がっていて会わないようにしような!」と声を掛けてましたが、残念ながら会うことになりました。

しかし、これが結果的に僕にとっては凄く貴重な経験をすることになったのです。

 

僕はこれまで2Aで見てきて、アメリカのレベルや、日本とアメリカの違いを感じ、また昨年まで日本のプロ野球で見てきた日本人選手のレベルとも照らし合わせながら色々と考えてきました。

そこで僕が感じた疑問や、もしかしてこうではないか?という仮説みたいなものなど、考えていたことを実際プレーしている有原に色々と質問することが出来たのです。

 

もちろんこれまでも通訳を通してアメリカの選手やラテンの選手たちにも出来る限り質問はしてきたのですが、やっぱり自分の言葉で、自分のニュアンスで話せる同じ日本人との話はかなり濃くなるものです。

 

色々と僕の中で答え合わせのようなものが出来たり、また有原も僕に質問してくれたりと、会話が僕にとって凄く有意義で本当に楽しく感じました。

 

そして僕が彼の投球を見て、日本でコーチをしていた時のように、「こうしてみてはどうか?」ということなども積極的に取り組んでくれたこともありました。

僕は「少しでも彼の力になりたい!」という思いで接していたことが、結果的には僕の中にある理論の整理になったり、

「やっぱりこれは間違っていなかった!」

という密かな自信に繋がったりして(笑)、本当に貴重な時間となったのです。





実は、僕の中で一番衝撃だったのは、3Aに来て有原と初めてキャッチボールをした時でした。

それまでスプリングキャンプを含めた約4ヶ月間では、こちらの選手を相手にキャッチボールをしてきたのですが、球は強いし、変化球も鋭い、正直球を捕るのが怖いなという印象でした。

 

しかし久々に日本人投手である彼とキャッチボールした時に、全く違う感覚が表れたのです。

こちらの選手は明らかに球が速くて、その怖さを感じたのですが、有原の球は軽く投げているように見えて手元で伸びてくる、また投げる時の球の出所がこちらの選手と見え方が違ったので、また違う種類の怖さを感じました。

捕る側が怖いと感じるということは、当然その球を打つ打者にとって打ちにくいということでもあります。




ここで技術的な詳細は述べませんが、僕の中で「これだ!」という確信を得られた事が多々あったのです。

なぜ、明らかにスピードが落ちる投手の球に怖さを感じたのか、日本人投手の良さは何なのか、日本人投手が体格やパワーに劣る中で活躍していくための条件みたいなものが自分の中でどんどんと整理出来て、今までの持論が全て繋がっていくような感覚になりました。

 

もうこれだけで、「自分はここに来た意味があった!」と思えたし、

また「このタイミングだったからこそこういう感覚が得られたんだ!」と思い、

僕は「なんて運が良いんだ!」と感じずにはいられませんでした。

 

そして有原は、僕が合流して約1ヶ月後の8月16日、見事に昨年以来となるメジャー再昇格を果たし先発することになりました。

その今季メジャー初先発で93球を投げてまずまずの投球が出来たな、と思っていたらすぐに、今季マイナーでも経験していない中4日でまた2試合目の先発となり、日本ではあまり考えられないようなタフな起用にもなりました。

 

しかし、その2試合目の先発で彼はそんな事など何の問題にもせず、あっさりと対応し、完封ペースと思わせるほどの素晴らしい投球を見せ、今季メジャー初勝利を果たしたのです!

 




日本人がメジャーリーグ(アメリカ)で活躍するためには、日本とは違う様々な環境や条件、そして文化や価値観の違いに対応、順応できないと、まず通用しません。

その中でも僕は色々な場面での価値観の違いが一番大きなことであり、それが多くのストレスのきっかけになると感じています。

 

そういう今までの自分が過ごしてきた環境とは違う中で、本当に僕は彼の心身とものタフさを感じましたし、尊敬すら覚えました。

僕は少しの期間でしたが、彼がマイナーでの厳しい環境や条件の下、中々自分の思い通りにいかない苦しい思いをしている姿も見てきました。

 

昨年のメジャー契約の40人枠から外れた今季、またメジャーで投げるためには40人枠(メジャーベンチ登録は1試合26人)に入らないといけません。

正直、これは想像するよりもかなり大変なことです。

 

なぜなら、もし誰かが40人枠に入るということは、誰かが外れるということ。

日本の一軍と二軍の入れ替えのような単純なものではなく、シーズン中でも40人枠から外れるのは故障者リストに入るか、"DFA"といって、一旦戦力外通告を受けて自由契約となるのです。

他の球団との交渉も可能になり、他球団に移籍出来ます。それでも移籍しないとなった場合は、マイナー契約で残るという形になるのです。

 

そういう簡単にはメジャー昇格できない状況でありながら、彼は諦めず投げやりにならず、しっかりと自分と向き合い、周りに惑わされることなく自分のペースを貫いていました。

これは本当に簡単に出来ることではありません。この精神力は中々誰でも持ち合わせているものではないでしょう。

この大きな壁を乗り越えた彼は、技術以上に得られたものがあったのではないかと僕は思いました。

 

また僕はメジャーの試合はスタンドからしか見たことがないので、正直ベンチで見るのと、客席で見るのとでは全く感じ方が違い、レベルを"生"で体感することは出来ません。

しかし他の選手も含め、これまで一緒に過ごしてきた選手がこうやってメジャーで戦う姿を見ることが出来て、少しでもメジャーのレベルを体感、想像出来るようになったことも僕にとって本当に重要なことでした。

 

こうして、僕は運良く有原と出会えたことで、様々な事を経験、体感しながら、

「本当にここに来れて良かったな!」

「これまでの恵まれていた環境を捨ててでも、ここに来た価値があった!

と改めて満足感を得られたのと同時に、今までの自分の全てが繋がっていくような気がしたのでした。。