キャンプが終わるといよいよシーズン開幕です。
キャンプ終盤には、選手はどこのレベルのチーム(ローA→ハイA→2A→3A→メジャー)に配属されるのかと凄く敏感になってきます。
その各々のチームにも選手枠があるのでシビアな争いになり、またその枠全てに漏れてしまった選手はそのままアリゾナに残り練習、育成試合をこなしながら昇格を待つということになるので、当然選手は敏感になりますよね。
今回は、僕がマイナーリーグのアーリーキャンプを含めたこの約1か月半で見て感じた日本とアメリカの違いなどを一度まとめておきたいと思います。
①練習内容
マイナーキャンプでは投手だけで80人ほどの人数が参加しており、全員を同時に練習開始する訳にはいかないのでグループ分けをして、練習開始時刻をずらして行なっています。
練習メニューはウォーミングアップ、ランニング、投球フォームに必要なエクササイズ(チューブやプライオボールを使っての肩周り、メディシングボールスロー、下半身は特に軸足の形作り)などを行なってからキャッチボール。
そしてピッチング、守備、ウエイトトレーニングでグランドメニューは終了し、これが午前中で、午後からはほとんど毎日のように30分〜40分のミーティングを行っています。
日本のキャンプと違うのは、圧倒的に練習量ということに尽きますね。
もちろんチームによって違うようですが、それほど大きな差はないと思います。
ピッチングは週に2度ほど、ウエイトトレーニングも2度ほどと、これも各個人がどの日に行なうかのほとんど全てをコーチやトレーナーが決めています。
ピッチングも週に2度ほど、そして球数の制限もあり、日本のように100球投げることは皆無です。笑
よくその事を聞かれ、事実を伝えると「信じられない!!」と皆んなが口を揃えて言います。笑
ランニング量は多い日、少ない日、無しの日とメリハリをつけていて、投手の守備に対するノックの量も少ないので、日本のキャンプに慣れてしまっている僕としては全体的にやはり練習量は少ないと感じてしまいます。
日本は「鍛えて強くなる!上手くなる!」という意識があるので、当然練習量は多くなりますよね。
正直言うと、ある程度出来上がった選手であれば、この時期は調整段階とも言えるのでこれでいいのかなとも思いますが、まだ体力的にも技術的にも未熟な選手はもう少し増やしてもいい部分があるのではないかと僕は感じました。
②投球レベル
とにかくストレートも変化球も球が強い!これが一番の印象です。
ストレートはここにいるほとんどの投手は94マイル前後(150km前後)は投げます。(左投手、サイド投手はその限りではない)
時々キャッチボールの相手もしましたが、とにかく手元でのスピード感があり球も重たく感じました。また変化球も曲がりが鋭く、ストレートと同じように強く投げている印象で、たまに手元での曲がりが鋭すぎて僕が取り損ない後ろに逸らしてしまうという事もあった程です。笑
ただコントロールに関しては、少しアバウトに感じましたね。特に変化球はストライクゾーンに投げ込むだけという感じで、ストレートにしてもそうですが日本のように細かい所にきっちりと狙って投げるということにあまり強い意識は無いように感じました。
もちろんコントロールのレベルの高い選手はメジャーリーガーには沢山いますが。
ここに成功するヒントがあるのではないでしょうか?
③ピッチングにおけるデータ分析を活かしたコーチング
ブルペンでの投球は、全てトラックマンでの計測やハイスピードカメラと通常のビデオ撮影をしていて、投球後に分析されます。
主にどういう球の質であったか。
スピード、回転数、回転軸、変化量、リリースでの角度、コントロール。
これらを全球分析し、選手個々の球の質を把握し、課題を見つけ改善していく。
コーチは毎朝、前日に投げた投手の分析結果を把握することが日課なので、練習前から忙しい時間を過ごします。
また昨年までの成績をフィードバックし、選手個々の課題を明確にして、改善に取り組む。
モーションキャプチャーで投球の動作解析をして、より良いフォームへの修正、習得につなげる。
など、あらゆる機器やデータを元にアプローチしていきます。
これまでは主観に頼って判断していたものが、機器の進化により数値化されるようになりました。
主観だけで判断したコーチングではなく、数値を元に説得力のあるコーチングを行なう。
もちろん数値にまだ表すことのできない技術の部分もあるのでこの部分に関してはコーチの腕が試されるでしょう。
またメンタル面においては、投手にとって非常に大事なスキルですので、この部分は主にシーズンに入り試合を行なっていく中でアプローチしていきます。
キャンプでは非常に理にかなったコーチングをしているという印象でしたね。
また変化球に関しては特に感じましたが、数値を最大限に利用して細かいアプローチをしており、日本でも今は同じようにアプローチをしているチームや個人もありますが、日本より徹底していると感じました。
特にこれまでのプロ野球のコーチは主観だけを頼りにしがちなことも正直あると思ってますので、この辺りは僕ももっと知識を増やし、今までの 「大事にしてきた主観の部分」と「新たなアプローチ」を上手くミックスしていきたい、今後の参考にしていきたいと強く思いました。
④日本のプロ野球が見習うべき部分
メジャーリーグのマイナーは、巨大な組織となるためフロント、監督コーチを含めたスタッフ全員が選手の育成方針をしっかりと共有しています。
また僕がこれまで日本のプロ野球でも問題となっていたと感じる選手への指導方針も、それぞれのポジションで「コーディネーター」がいて、各々のコーチによっての指導の方向性が違ってしまわないよう管理しています。
また選手起用やカテゴリーの昇降格の判断も主にフロントやコーディネーターが行ない、全体の管理もきっちりと行なっています。
また以前の日記にも少し書きましたが、こちらではフロント、監督、コーチ、アナリスト、トレーナー、それ以外の業務のスタッフ(全部は書ききれないほど色んな分野の方がいます)が、それぞれがしっかりと役割分担されていて、それぞれがリスペクトし合ってコミュニケーションを取る。
そしてその相互関係の上で、選手1人1人のアプローチを全員が責任を持って行なっていく。
もちろん意見が分かれれば、まとめ役の肩書きを持っている人が最終判断をする。
本当に一つの「チーム」となってアプローチしているなと思いました!
それと日本のプロ野球ではまだスタッフのことを「裏方さん」と呼ぶイメージがあります。
誤解しないで頂きたいですが、日本では少しパワーバランスが現場の監督、コーチ、選手に偏りすぎているのではないかと考えさせられました。
もちろん日本のプロ野球には日本人の気質に合った良い習慣や価値観も沢山あるので、全てを見習い取り入れるべきだ!とは思いませんが、こういう部分においても参考にできる部分は多々あると思います。
全体として、データを駆使したコーチングや役割分担が明確で、球団の「システム」がしっかりと構築されていることを目の当たりにして、これまで日本のプロ野球での経験しかない僕には凄く刺激になりました。
最後に日本の方が明らかに優れている部分を紹介しましょう。
・投手の守備力
・クイックモーションでの投球
・牽制球のレベル
・変化球の細かいコントロール
もちろん全ての投手に当てはまる訳ではないですが、この4つは日本の投手が誇れる部分ではないでしょうか?
「投げる、打つ、走る、守る」。
この価値観が少し日本とアメリカでは違うようにも感じます。
野球自体が違うと表現する人もいますが、僕も時々そのように思います。
まだまだ色んな分野での日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグの違いが、この後もどんどん感じられると思うので、これからも自分の「アンテナを張り巡らせ」、沢山の経験をして、今後の自分の糧にしていきたいと思っています。