そしていよいよプレゼン当日。
しっかりとまとめた内容を事前にヒロくんにも見てもらい、お互いが準備万端で挑みました。
場所は広いコーチ室でフロントのお偉いさん方や投手コーチ全員はもちろん、興味のある野手コーチも沢山聞きに来てくれました。
まず僕は、どういうキャリアを持って、ここに何の目的で来たのか?を知ってもらうため、これまでの実績やここに来た想いなどを話していきました。
これは意外に重要で、僕がどういう実績があるのか詳しく知っているのはフロントの方々とコーディネーターくらいで、ほとんどのコーチは僕のことを詳しく知りません。
アメリカのコーチは、メジャー経験者ももちろんいますが、ほとんどが主にマイナー経験中心のコーチが多く、さらにプロ野球経験のないアマチュア出身のコーチまでたくさんいます。
ましてや日本人の僕は、
「アメリカにちょっと勉強しに来たんでしょ?」みたいな、これまでも沢山の研修コーチが来ていますので、珍しくも何ともない雰囲気で、特別気にもしてもらってないような感じがしてました。
だから、僕のキャリアを最初に話すことは、この後の内容の説得力を上げるためにかなり重要であると僕は思ったのです。
「日本から来たクラノシンジです。」
「私は日本のプロ野球で11年間投手としてプレーし、その後コーチを13年間務めさせてもらました。そして……」
と、まずは自己紹介で日本での実績など、いつもより声を張った口調で話し始めました。
するとその時、みんなの表情が一変したのです。
これまで僕が挨拶程度しか話していなかったので、まともに僕の声を聞いたことも少なく、ましてや日本語をペラペラと話していくことに驚いていたような気がしました。(笑)
そして肝心な本題に入りました。
「日本とアメリカの練習の仕方、考え方の違い」
「僕の理論によるメカニックのタイプ別分類」
「タイプ別パフォーマンスアップのためのチェックポイント」
「育成のための重要事項」
本題に入るとすぐにみんなの聞く姿勢がみるみると変わっていきました。
そして一気に40分話すつもりが、所々で疑問や深掘りして聞きたいことを次々とみんなが手を挙げ始め、質問してくるようになったのです。
「日本の練習量はどのくらいなの?」
「日本の投手の投げ込みはどのくらいするの?」
「何故投げ込みをするの?」
「遠投はなぜ行うの?」
「それをして怪我はしないの?」
など、今のアメリカの取り組みとは違うことにみんな凄く興味があるようでした。
それはそうですよね。特に投げ込みに関しては日本でも問題となっていますが、それはまだ大人の身体になっていない子供たちの話であって、日本のプロ野球選手のほとんどがキャンプには投げ込みを行う時期を設けています。
アメリカでは「信じられない!」球数を投げているのですから。
こうやって次から次へと手を挙げ質問してくれたのは、それも日本の野球レベルをリスペクトしてくれている証だと嬉しくなりました。
日本人選手がメジャーで活躍していなかったら、誰も興味を持ってなかったでしょうから、これまで日本人選手が成し得てきたことは素晴らしく、僕の立場からも本当に感謝すべきことです。
そして僕も話していくうちに、どんどんノッてきて(笑)、ヒロくんもかなりの熱量で一生懸命伝えてくれ、終わってみれば予定の40分を大幅に超える80分ほども話していました。(ちゃんと状況や反応を見て増やしてますので笑)
そして最後の締めの挨拶では、
「僕は全てをリセットしてまでここに来ました。
ここで色々なことを学ぶため、そして少しでもどんなことでも力になりたいと思ってます。
キャッチボールの相手、バッティングピッチャー、球拾い、何でもやります。
希望ならマッサージもやりますよ!…(笑)」
なんて、ちょっと最後はウケも狙って笑わせ締めました。(笑)
そして終わった瞬間に…!
「拍手喝采」「握手」「ハグ」と、次々と僕のそばに来てくれ沢山の感謝を伝えられました。(涙)
本当にこの瞬間は涙が出るほど嬉しかったし、ヒロくんとも、
「これは手応えあったよね?」
「よかったよね?」
と、2人で確認し合って、感激し合って、その余韻に浸りながらお互いを褒め称えました。
こうしてヒロくんの活躍のおかげもあり、僕は、
「光が見えた!確実に今後の分岐点とも言えるプレゼンができた!」
と、これまでの日々が嘘のように、手応え充分の時間を過ごせたのです。
「よーし、宿舎に帰って1人で祝杯だ!!(笑)」
その日は1人でも気分良く飲むことができ、本当に久々にスッキリとした気持ちで寝つけた思い出の日となったのでした。(涙)