土曜日の朝が来た。

待ち合わせは午前11時、Bondi Beach KFC前

僕はオレンジジュースを飲んで、シャワーを浴びて

ウエットスーツを着て、サーフボードをかついで家を出た


KFCにはもうみんな集まっていた。

実は、僕は寝坊した。

どこまでもマイペースなのが取り柄。

5分くらい、いいでしょ。

文句を言う人は誰もいなかった。

みんな、ウキウキだったから。

ユンとラナ以外はみんなウエットスーツ。

二人は日傘持参で、見学らしい。


4人で海へ入る。

今日のコンディションはまずまずらしい。

波もそれなりにあって、天気もいい。

もう15人くらい波に向かっている。

とりあえず、ボードの上で波を掻き分けて前に進む。

これをパドリングと呼ぶ。

ぼくはずっとバスケットをしていたから、腕力には自信があった。

でも舞台は海。

なかなか前に進まない。

もともと水泳をしていたアダムの方がさすがに上手だった。


なんとかみんなについていき、タケに手本を習う。

タイミングとコツをつかめ。

それだけ言って波に乗っていってしまった。

これでは全く上達しなそうだ。

オトノが近くに来て

「タイミングのいい時に、後ろから押してあげるから!」

僕のボードの後ろに、オトノのボードがぴったりくっついた。


しばらくして、波が来た。

「Now!!」

オトノが僕のボードを強く押した。

僕はタケの様に波を掻き分けて前に進むと、

波に押され、スピードがついた。

サーーーーーーーっとゆう風と波の音をはじめて聞いた。

「うわーーーー!!」とぼくは叫んだ。

波に乗れたんだ。

生まれてはじめての感覚だった。



僕は今でもこの気持ちを忘れていない。




 金曜日のBreak Timeにタケとオトノと話していた。

もちろん、アダムも一緒に。

話しは自然にサーフィンの方向へ進む。

冷や汗。

実は日曜にBondi Beach でオトノに会ったことを、アダムに話していない。

とゆうか、誰にも話せていない。

なんとなく、言えなかった。


土曜にオトノとサーフィンに行こうと思うんだけど、みんなもどう?

とタケが切り出した。

週末の予定はまだだった。

アダムはすかさず「I'm Ok」

僕は、少し溜めて「Me too」

こんな感じで、日本人による韓国人のための土曜日サーフィン教室は決定された。

何人でも誘っていいよ、とオトノ。

隣のテーブルで聞き耳を立てているユンとラナは頷いていた。


ジムはキャンセルした。

土曜日は、クラスの友達と一緒に過ごすらしい。



家に帰り食事を済ませ、一人部屋で考える。

なんでオトノはあの時、日曜日の出来事を話さなかったのか。

「Jiwon ! Thank you at Sunday !!」

いや、感謝されることは何もしておりませんが、、、。

やっぱり、タケに気を使っているのかな。

あの時、ストレートにタケと付き合ってるのか聞けば、、、

いやいや、それは愚問だ。


それにしても、へんな気分。

まるで僕はアダムに、オトノはタケに内緒で

密会したかのようだ。

お互いにお互いのことを秘密にしている。


テレビのチャンネルを変えるように、ユンファを思い出す。

とりあえず、シャワーを浴びよう。






その夜、ユンファから国際電話がきた。

セレナが珍しくドアをノックしてきたので、ちょっと動揺したのに

国際電話がきた、なんて言われたからもっと動揺した。


子機を受け取って、セレナにお礼を言う。

「ヨボセヨ」

「、、、ジウォン?」

声が水色だった。

「ユンファ、、どうした?」

「うん、、元気かなって」

かわいい。「元気だよ。そっちは?」

「変わりないよ。学校、大変なの?」

「うん、、、まだ慣れないし。」

軽い嘘をついた。

「そうなんだ、、、。」


沈黙

僕は「どうかしたのか?」と聞いてみる。

「連絡が来ないから、不安だったの」

「そうか、、、ごめん。明日メールするよ」

「もっと楽な遠距離恋愛だと思ってた。

軍隊にいた時は、連絡できない事をあきらめてたから」



電話を切って、ユンファのことを考えた。

僕は、勝手だ。

彼女がそばにいる時は、彼女がいなければダメなのに。

孤独を感じた時はいつも、彼女がいればいいと思うのに。

彼女がいない事に慣れ始めると、、、。


軍隊の2年間に加えこれからの一年、彼女を待たせているのに

僕は、何も彼女にケアをしようとしていない。

小柄で、奥二重の目。

小さい手に小さい唇。

髪はさらさらで、いつも僕の後をついてくるユンファ。

いつも僕を、待っていてくれるユンファ、、、


もっと日常に彼女を映し出そう。

学校でも、Beachでも、家でも、、、

これ以上、この感覚に慣れない様に。

いつもの日々から僕だけがいなくなった寂しさを感じるユンファのために。



  月曜日から、オトノの笑い声をなんとなく捕らえるようになった。

Break Time,日本人のグループで集まっては大爆笑。

その笑い声を聞いてるだけで、こっちまでおかしくなる。

たまに顔から口が出るんじゃないか心配になったりもする。


僕とタケが話していると、オトノは必ず近づいてくる。

その時はアダムもすかさず加わってくるんだ。

サーフィンの話しや、おいしいケバブ屋の話。

オトノはすぐどこかに消えてしまうが、

彼女の話した言葉は、アダムの心に染み付いていた。

少し残酷な自分。

いつか、もう少し冷めたら教えてあげよっと。



「いつも楽しそうだな」

アダムはオトノを見つめため息交じり。

それもそのはず

木曜日に、オトノとタケの噂が広まった。

バッパーから一緒に登校するところを、誰かに見られたらしい。

多分見つけたのは、タケに憧れてる韓国人の女の子だろう。

じゃなきゃ、ここまで広がらない。

まったく、そっとしといてやれよ。


その日は朝からStudent Roomで

「なんであんなフツーの女が!」

とひがみ丸出しのユンとラナ。

「おまえらもフツーの女だろう」

と、ジムがピシャリ。

それでも、アイドルのお相手にご不満なふたり。

そしてお相手がアイドルである事に絶望なのが、ひとり。

アダムだって、切れ長の目に僕と同じくらいの身長、

スタイルだっていいし、優しくていいヤツだ。

、、、でも少し計算高いけどね。


オトノに何人かが「タケと付き合ってるの?」と質問した。

その度に、否定もせずただ笑い流したらしい。

賢い、と思った。

信頼関係のない人がYesと疑ってる事に、Noと言っても信じるはずがない。


放課後、アダムの気晴らしに、学校内にある卓球台で遊んだ。

ユンとラナも混じって、ダブルス。

空気が和んできたから、僕はお先に。

PCでメールをチェック。

ユンファからのメールが2通きていた。

あとは、お母さんと友達から。


ユンファへのメールを1時間くらいかけて打ち込んだ。

書いては消し、消しては書いた。

でもなぜか納得できず、

保存して後日送信することにした。


  しばらくの間、僕はオトノを見守っていた。

誰にも気づかれずに。誰にも気づかれたくなかった。

ただ、今このビーチに知り合いはオトノしかいない

とゆう理由で見つめていたのか

無意識に見とれていたのかは、わからない。

でも、ずっと眺めていたいと思った。


しかし、オトノが海から上がってくると、気分は一変した。

早くこの場から立ち去らねばっ

気づかれたくなかった。特にオトノには。

「Jiwon ! What are you doing ?」

ばっちり気づかれる。

「Hi,,,Otono,,,Surfin ?」

動揺で頭が働かない。

「Of course ! Ah~, Waiting for me at KFC」

と言うなり去っていってしまった。

僕は言われるなりカーネル・サンダースの店へ。


20分程でオトノが来た。

まず僕に手を振り、オーダーを済ませMealと一緒に席に着く。

オトノはまずどうして一人でいるのか、と聞いてきた。

僕は説明するのもしゃくなので、

「Some time, I wanna leave me alone」

と言った。彼女は私もそう、と言いチキンを食べ始めた。

それから、いろいろな話をした。

タケは今日ルームメイトとパディントン マーケットに行っている事や

毎晩Partyをしている事

サーフィンと絵を描きにシドニーへ来たこと。

僕はホストファミリーやアダム、ジムについて。

韓国の家族や、アーミーのとこも話した。

僕の話を聞くときは、じっと目を見つめる。

アダムはこのネコ目にやられたのかな。

お腹がすいていたのか、気づけばきれいにチキンを食べ終えていた。


なんでサーフボードを持ってるのに、しないの?

と言われた。

一人じゃまだ自信がないんだ、、、

的なことを英語で伝えると

タケと私でサポートするから、一緒にしよう!

と笑顔で言ってくれた。


うれしかった。

本当は、この言葉を言って欲しかったんだ。

韓国人と日本人の距離が縮まるし

サーフィンも教えてもらえる。


この時はアダムの気持ちと、オトノとタケの関係を考えて

複雑だった。

でもそこに、僕の気持ちも入っていたのかもしれない。