パチンコ屋で働いていると、たまにどうしようもないKUZUと働かねばならない時もある。

 

 

私がとあるパチンコ店でチーフという役職に昇進し、主に事務所で働くようになっていた時の話。

 

 

当時、私はまだ20代半ば、K玉チーフは30過ぎの先輩男性だった。

 

 

低身長で足が短く顔面(頭)が大きい。濃く太い眉毛に大きなギョロ目、青髭がすごかった。

皆さんがイメージしやすいように描写しているだけで、他意はありません。

 

 

インテリなんでしょう。

キレイな標準語で頭の良さそうな話し方をする。

 

 

そして理屈家。

ああ言えばこう言う。

そこは私とそっくりだった。

 

 

でも決定的に違うことは、いつも周りを見下したような目で人をこき使う点。

上下関係にこだわり、自分の仕事じゃないと思ったら絶対に動かない。

 

 

早番の時、このK玉と2人っきりになるのが嫌いだった。

 

 




ある日、アルバイトさんからインカムが入った。

 

 

「チーフの方、入口のところで歩きタバコをしていた男性が、火のついたタバコをドアマットのところにわざと落としていきました。マットが焦げてしまっています。」

 

 

ドアマットはレンタル業者から借りている物なので、おそらく弁償になる。

何より、火事の原因にもなりかねない危険な行為。

 

 

幸い黒く焦げただけでタバコの火はすぐに消えた。

 

 

更にインカムが。

 

 

「タバコを落とした男性、店内にまだいますがどうしましょう。」

 

 

ホールに出ていた社員は休憩中。

この場合はチーフが行くべき。アルバイトさんには荷が重い。

 

 

「こちらで対応します。その男性、どこにいます?」

 

 

カメラでどんな人か確認をする。

 

 

背の高い、不機嫌そうな顔をした中年男性だった。

 

 

この時私は事務所の奥でカメラの操作をしていて、K玉は出入り口近くのイスに座っていた。

 

 

思わずK玉を見た。

 

 

K玉とは目が合ったがそのまま目線を下に落とし、何も聞こえない振りをした。

 

 

事務所にはもう一人、派遣の事務員さんがいた。

 

 

私より一回り上の姉御的存在で、いつも優しく頼りになる存在だった。

 

 

その事務員さんとも視線を合わせ、「この場合はそうだよね?」と暗黙の了解を得る。

 

 

言ってみた。

「K玉チーフ、対応をお願いできますか?」

 

 

問題を起こす男性客相手の対応をするのは男の仕事、と常々マネージャーとアシスタントマネージャーが言ってくれている。

 

 

激昂し、手を出される可能性が少なからずあるからね。

 

 

それに男性チーフは白シャツにネクタイを締めているので、明らかに社員だとわかる。

女性チーフはアルバイトと同じ制服にリボンがつくだけなので、見た目では分かりにくい。

 

 

K玉は返した。

 

 

「ふっ。なんで俺が行かなくちゃいけないんだよ?パルチーフがインカム取ったんだから自分で行きなよ。チーフでしょ。」

 

 

やっぱりな。

言うと思ったよ。

 

 

確かにその通り。

先輩・後輩という立場ではあるけれども、役職はいっしょ。

責任も同じ。

仕事である以上、男だから、女だからという甘えは不要。

 

 

でも言うよ?

 

 

小さい。

 

K玉は男としても小さい。

 

 

そもそもK玉はインカムを取らないから私が出た。

 

 

別にこんな対応どうってことない。

普段からもっとひどいお客さんと渡り合ってるんだし。

 

 

でももしあの場にマネージャーやアシマネ、先輩チーフがいたら、K玉は真っ先に現場へと走っていくんだろうな。

目上にはごまスリだから。

 

 

事務員さんも鋭い目つきでK玉を睨み、口をあんぐり開けていた。

 

 

K玉は知らない。

 

 

私がこうした客を取り込むことが得意だということを。

 

 

大体向こうに言われるのだ。

 

 

「あなたじゃ話にならないから、上の人を呼んで」

 

 

「私が責任者なので、私がお話を伺います。」

 

 

「え、あなたが?バイトじゃないの?」

 

 

まだうら若き乙女(当時)が頑張っている姿を見て、応援しようとしてくれる人が少なからずいるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンコ店では、台が故障して遊技不可能となった場合、その台を稼働停止させなければならない。

 

 

営業時間中、閉店後に関わらず、部品を交換してすぐお客さんに開放することは風営法違反に当たるため、厳しく罰せられる。

部品交換後は警察に承認申請をし、許可をもらってからの稼働再開となる。

 

 

許可を得るまでにはどうしても数日かかるため、その間の稼働(売上)が無くなる。

 

 

しかしお客さんから「ちょっとこの台の調子が悪いんだけど・・・」と申し出があった場合の多くは、部品交換が必要ないケース。

 

 

例えばハンドルを動かせないと言われたら、単にハンドルのネジを数本外してパカっと開ければ、中にプラスチックの破片が挟まってた〜なんて場合もあるので、そんな時はただ取り除いて終了。

 

 

軽く清掃するだけで直る問題も多く、その場合は部品交換はしていないのでOK。

 

 

ただ・・・

 

 

大きな声では言えないが、お店によっては営業中に部品交換を行い、こっそりお客さんに開放させてしまっている場合もある・・・

 

 

と、思われる。

 

 

どのお店にも予備の台が置いてあり、例えば機種は違うけどメーカーや台枠(上皿やハンドルなどを含めた前扉の部分)は一緒なので、倉庫にあるAの台の部品と、店内にあるBの台の壊れた部品をそのまま交換できる、という場合がある。

 

 

 

 

 

 

 

この2機種は、枠が同じ形・カラーなので交換可能。

 

 

 

ただし最近は、機種ごとにオリジナルのド派手な枠を採用するケースが増えてきているので、使い回ししにくいよね。
 

 

 

 

 

 

 

 

機種限定の枠は目立つし迫力があるんだけど、

スタッフからしたらただただ重くて扱いにくい・・・

 

 

 

大きな部品はダメでも、小さな部品なら周りのお客さんにバレないように交換しちゃえ〜!みたいなことはあると思う。

 

 

繰り返しになるけど、いくら交換できるとは言っても届出をしなければ違反行為。

 

 

いくらお店側は売上がほしい、お客さん側はそれまで投資したのだから続けて同じ台で遊びたいとは言っても、コンプライアンスに反する。

 

 

そんなある日、また運悪く私はK玉と一緒の早番だった。

 

 

ホールを回していた社員からインカムが入った。

 

 

「チーフの方、〇〇番台が壊れて遊技できないため、止めてもいいですか?」

 

 

もはや何が原因だったか忘れてしまったけど、とにかく打てなくなった。

その社員が対応を試みたものの、直せなかったらしい。

 

 

たぶん、返却ボタンを押してないのに上皿の玉が勝手に下皿に戻ってくるとか、上皿の玉が発射台に流れていかないとか、いずれにせよ上皿が原因のトラブルだったと思う。

 

 

機種によっては分解するのに何十個もネジを抜かないとトラブルの元にたどり着かないので、そんな長時間お客さんを待たせるわけにはいかない。

 

 

スタッフがトラブルにかかりっきりになるとホール回し(アルバイトさんの休憩を回したり、ホール巡回をすること)にも影響が出る。

 

 

もし時間をかけて原因がわかったところで、結局部品自体が壊れていて交換が必要→稼働停止、となったらまたお客さんを怒らせるだけ。

 

 

なので私が社員と対応を代わり、お客さんに説明した上でできるところまで分解してみてトラブルの元を見てみることに。

 

 

この時のお客さんは時間がかかるなら諦める、と台移動をしてくれたと思う。

文句も言わずにありがたい・・・

 

 

結局これは部品の交換をしないとダメだとなり、事務所に戻ってK玉に報告。

 

 

「〇〇番台、部品不良のため整備中にしてあります。」

 

 

するとK玉、

「いやいやいや、同じ枠が倉庫にあるでしょ。交換すればいい話じゃん。」

 

 

「でもあの機種は上皿の交換に時間がかかります。ほぼ満席状態の狭い島の中でまたあちこち分解して交換することは隣のお客様の迷惑になります。そもそも営業中に部品交換してまた開放したらダメですよね?」

 

 

「前扉ごと交換しちゃえばいいんだよ。」

 

 

「へ?そんな大胆な交換、できませんよ。モロバレじゃないですか。」

 

 

「だからバレないように、一度壊れた方の前扉を倉庫に持ってって、新しい前扉をそこから持ってくんだよ。それならお客さんの目の前で交換するわけじゃないから、わからないでしょ。」

 

 

「はい〜?前扉を外して倉庫に持って行くって、その間前扉無しの状態で台を放っておけって言うんですか?できるわけないでしょう。今は止めた方が良いと思います。」

 

 

「そんなの誰かアルバイトに見張りをさせておけばいいじゃん。それか布かなんかでカバーしておけば?」

 

 

「ホールは今忙しいですし、とにかく私にはできません。やりたいなら自分でやってください。」

 

 

「お前さ〜、台を1台止めるだけで、どれだけの売上の損失に繋がると思ってんの?チーフなんだから経営のことを考えられるようにならなきゃダメだよ。」

 

 

はぁ〜〜〜?!

まずお前ってなんだよムカムカ

お前にお前呼ばわりされる筋合いはねーんだよ!!

 

 

それにお前こそ正気か?

 

 

ホールに警察の関係者がいるかもしれない。

 

 

もしかしたら「非番だから僕ちんには関係ないも〜ん」とか、「行きつけのお店が営業停止になったら困るから秘密にしておこう」とかいう考えの人もいるかもしれない。

 

 

でも前扉ごとどこかに持ってって付け替え、その後開放するなんて大胆な行動、普通はしないでしょう。

やってるお店もあるかもしれないけど

 

 

営業停止処分なんてくらったらそれこそ大打撃だとわからんのか?

 

 

「わかりました。そこまで言うならAM(アシマネ)に確認の電話をしますよ?!どちらの対応が正しいのか、判断してもらいましょう。」

 

 

長年封印していたチクリ大魔王の癖が出た。

 

 

私はとっととAMに電話をかけた。

すぐに出てくれた。

 

 

AMは当時も若い上司だったけど、バイト上がりで昔ヤンチャをしていた感じの、話のわかる人だった。

とっても話しやすい人。

 

 

するとK玉、私がAMと話す前にとっととホールへ降りてしまった。

自分の判断が絶対に正しいと思ったんだろうね。

 

 

K玉を貶めるような電話を、怒り混じりで新人のチーフがかけてくるのだからAMも困っただろうな笑い

申し訳ない・・・若気の至りってやつよ。

 

 

AMは私の言うことを否定も賛成もせずうんうんと聞き、

「話はわかった。K玉チーフが戻ってきたらもう一回俺に電話をかけさせて」と返した。

 

 

部品交換の考え方について指導が入ったのかどうかはわからないけど、私とこんな風に言い合いをして後輩チーフに相談の電話をかけさせることは失態。

今後こういうことのないように、とは言われたようだ。

 

 

そりゃそうか。

本来、故障台の扱いについてはチーフ判断。

忙しいAMにわざわざ電話をかけて聞くようなことではない。

 

 

ちなみにこの時K玉が結局前扉の交換を行ったのかどうか・・・

 

 

したとは言ってませんよ?

 

 

正直、怒りの記憶の方が大きくて覚えてません笑い

 

 

もしかしたら倉庫に見に行ったけど、結局それもどこかが破損してて使えなかった、って可能性もあるし・・・

 

 

とりあえずこの日以来、K玉にあーだこーだ言われることは無くなったのでした。

ざまぁ〜!グー

 

 

 

拝啓 K玉様

 

 

 

おつかれさまです。

 

 

当時は色々なことがありましたね。

 

 

私も若かったので、多少の無礼には目を瞑っていただけると幸いです。

 

 

私が退職する少し前、あなたには彼女ができました。

 

 

冗談だと思いました。

 

 

もしかすると、職場でのあなたとプライベートのあなたには違いがあるのかもしれませんね。

だといいのですが。

 

 

あの日からあなたの表情は心なしか柔らかくなり、のろけ話をすることもありましたね。

 

 

あの彼女さんと無事ゴールインできましたか?

 

 

もう四十を超えていることでしょう。

 

 

シニアチーフにはなれたでしょうか。

 

 

出世欲の人一倍強いあなたのことだから、きっと今も同じ会社で頑張っておられると思います。

 

 

あなたが昔のままなら、あなたがマネージャーのお店では絶対に働きたくないけど、毎日健康で笑顔に溢れた暮らしを送ることができていますように。

 

 

敬具