ケーススタディーを続けます。

 

【遺言1】

①故人は生前、犯罪を繰り返し、刑務所への出入りを繰り返す長男に対して不動産を残さないという内容の公正証書遺言を作成していた。

ところがその遺言には現預金など、その他の財産についての記述がなく、万一相続発生時に刑務所に収監されていた場合には分割協議を含む相続税の申告及び納税に支障を来たす懸念があった。

推定相続人は3人。ヒアリングを進めると数千万円単位の納税が予測されるが不動産の他に十分な現預金はあることが判明。

この段階で故人は高齢者施設に入所しており、会話はできるが意思能力に関しては微妙な状況。

 

(取組)

・現存する遺言書に関して法律家に確認、やはり不動産以外の分割に関しては遺留分を含めた協議が必要との判断

・長男の家族に刑務所からの出所の予定を訪ねるも不明

・相続財産の評価と相続税の試算を会計事務所に依頼、試算に基づく分割計画を長男以外の推定相続人と協議

・公正証書遺言案の作成を司法書士に依頼。

 

(結果)

・相続財産の評価をしたところ不動産より現預金の方が多く、加えて多数の生命保険への加入あった

 現預金に保険金を加算すると相続税の納税資金に十分な残高であることが分かった

・長男以外の推定相続人の意向は、「土地を含めて兄弟の法定相続割合1/3ずつ、かつ分割協議を経なくても申告及び納税ができる内容での遺言作成」となった

・被相続人が一時自宅に戻ったタイミングで公証人が読み聞かせ、意思能力は万全とは言えないものの、推定相続人の権利を大きく侵害する内容ではないとの判断もあり公正証書遺言を無事作成

・公正証書遺言作成から1年余りで相続が発生し、遺言の通り長女が執行し無事相続税の申告納税まで完了させた

・その後長男が刑務所から出所、私も含めた相続人間での話し合いで分割協議が整い、無事遺産の分割は完了した。

 

(学び)

・遺言は相続の分割にあたって時代の背景、税法や民法の改正に合わせて見直しが必要。

・相続において申告期限内での納税については現預金の確保を最優先に考えるのはもちろんであるが、その分割に関してトラブルが生じないように事前に手を打つ必要もあり得る。

 遺言による分割や協議分割が成立しなければ納税もままならない。

 

②故人は農家でたくさんの不動産を所有していた。

全てが都市計画上市街化調整区域にあり、加えて農業振興地域の指定を受けている土地も多く、資金化が困難な資産背景であった。唯一、ゴルフ場に土地を賃貸しており、その収入が家計を支えていた。

故人は毎年のように少しずつ土地を処分。

私の顔を見ると「川島さん、土地売ろうよ」と声がけしてくる状況であった。

私は納税資金を確保せずにお金を野放図に使っているのではないかと疑い、毎回「税金分はお金取っておいてよ」とお願いする始末であった。

故人には子が無く、がんの治療を継続中の配偶者のみが当時推定相続人であった。

ある日、配偶者から連絡があり、故人ががんで体調を崩して病院に入院していると連絡が入りお見舞いに向かった。

ナースステーションで受付をしようとしていると配偶者が待合スペースから血相をかえて私にこう言いました。

「あの野郎女がいやがった、私が受付しようとして関係を聞かれたので妻だというと看護婦さんから『さっき奥さんという人が来ましたよ』と言われた」

大声で怒鳴り、修羅場。

私と集中治療室の痩せ果てた故人と次のようにやりとり

「思ったより顔色いいですよ、桜の頃にはよくなりますね。何か気になることはありますか?」12月の寒い頃でした。

「遺言をしたい、兄弟と女房のトラブルは避けたい」

「わかりました、段取りします」

 

後日配偶者に報告に行くと

「あのにマンション買ってやっていた。さっき女が来て車を持って行きやがった」

「…」

 

(取組)

・司法書士に連絡し、公正証書遺言作成のために公証人の立会のもと病院での口述を記録する準備

・あらかじめ、認知した子があるかを戸籍で確認することを依頼

・本人に作成日を連絡

 

(結果)

・私はあいにくインフルエンザに罹患し当日の立会は叶わなかったが、無事配偶者に全てを相続させる内容の公正証書遺言を作成

・認知した子はなかった

・相続税や前年の土地の譲渡税納付のためになけなしのゴルフ場へ賃貸していた土地も賃借人に売却

・残された配偶者は自身のご兄弟へ様々な問題を相談するようになり私とは疎遠に

 

(学び)

・配偶者と兄弟との諍いを懸念するのは皆さん共通の認識

・皮肉にも葬儀やその後の手続きを仕切ってくださったのは配偶者が煙たがっていた、実務に明るい故人のお姉さんであった。人はわからない

 

(後日談)

・配偶者も追って亡くなり、ご自宅を含めた財産は配偶者の相続人となった配偶者のご兄弟たち。しかし全員相続放棄の手続きをした。

・自宅を含めた不動産は10年経過した今も放置状態