ことあるごとに、彼を思い出す。
ランニングをする時は、彼のアドバイスを思い出す。
高校で3年間同じクラスだった陸上部の友。
種目は中長距離。
授業中にいつも赤鉛筆を片耳に引っ掛け、机上には競馬新聞。
真剣そのもの。
授業中に...
と思うかもしれないが、他の教室とは違う、異質な3年間だった。
ここでは書けないようなことが、日常だった。
それがこの教室のスタンダード。
ひとたび、競馬新聞から目を離せば、人をからかったり、おどけてみたり。
人を楽しませることが得意なヤツ。
これが彼のスタイル。
教室では見せない一面もある。
いつも登校時間よりも早く学校に来て、トレーニングルームでトレーニング。
学校には、フィットネスジムのような、マシントレーニングが出来る部屋がある。
ここで彼と一緒にトレーニングをした。
もう一人。のちに北京オリンピックの選手に選ばれる友と、3人だった。
一緒にトレーニングをする中で、走り方のことを彼にはよく聞いた。
覚えているのが、
「腕で引っ張れ」
「アゴを引いてな」
この時間は、教室で見せる顔とは、全く違った様子でお互い少し真剣に話してた...
仲が良かった。
大学への進学で彼は順天堂大学へ。
関東の大学で長距離といえば、言わずと知れた箱根駅伝。
彼は、1回生ながら箱根を走るメンバーに選ばれた。
輝かしい未来を期待される選手。
箱根駅伝に向けての路上トレーニング。
その中で事故に遭い、還らぬ人となった...
彼が事故にあい、病院に運ばれたと、連絡がきたんだ...
当時、彼の死がマスコミに取り上げられた。
ドキュメント番組にもなった。
彼には双子の弟がいる。その弟も大学進学時に京都の高校から、順天堂大へ。
同じく陸上部。
彼が亡くなったことで、空いてしまった箱根の席を弟が走る。
もしそうなれば、よく出来たドラマのような...
当時の順天堂の監督は、力不足ということで弟には走らせなかった。
私には、その監督の選択がとても印象的で...
ドラマのような...美談のような...
世間の期待を裏切るような、その選択が...
亡くなった友と、その弟。順天堂の選手のことを一番に考えられた判断だと感じ、何故か安心したことを覚えている。
よく、彼を思い出す。
ただ走るとき。
競馬番組。
赤鉛筆。
大阪マラソンを走ったとき。
スポーツ番組を見たとき。
順天堂と聞いたとき。
箱根マラソン。
懸命に努力をしない選手を見たとき...
彼は目標に向かって、必死に走っている中で、突然の死をむかえた...
やりきれないだろう...
ランニングするときは、必ず彼のアドバイスを、心の中で唱えて走っている。
「腕で引っ張れ」
「アゴを引いてな」