さて、前回はオオクワガタ飼育の黎明期のごく初期のお話だけとなってしまいましたが、今回は現在に至ってもなおオオクワガタ飼育の究極の飼育法である菌糸ビンとそれに対抗するように編み出されたユニーク飼育法を私の知っている範囲で紹介しようと思います。
まずは菌糸ビンですが、私がオオクワガタ飼育を始めて1年くらい経った頃だったか、大して買い物もしないのに新宿伊勢丹(当時「オオクワといえば新宿伊勢丹」と言われるほど。今で言えばランバージャックさんみたいな感じです。)に足しげく通っていたら、ある日中身が真っ白なガラスビンが…話を聞いてみたところ、キノコ菌を培養したものでオオクワガタを大きく育てられる新しい幼虫の餌だとの事。
菌糸ビン投入された3令幼虫も販売されていて♂20gオーバーがウン万円。当時ではかなり大きい幼虫だったのでビンから見えたその幼虫を食い入るように見ていました。
ただ、死亡リスクや温度管理がシビアで今まで通りの常温管理では好結果は得にくいという注意も受けました。まあ、この辺は今も変わらないですよね。
何よりも驚きなのは価格なんですが、あらためて記憶をたどってみましたら900㏄が6千円、1800㏄が1万2千円、ブロックが2万円でしたね。あと、お決まりの白黒コピーマニュアル菌糸ビン飼育版が千円でした(笑)
もちろん、当時はぺーぺーのサラリーマンだった私にはそんな高価なものを数十頭の幼虫全てに定期的に交換して使用なんてできるワケもないので断念。マット飼育にいそしむより他はなかったという状態です。
ちなみに私がこの時見た菌糸ビンはオオヒラタケでしたが、それよりも前にブリーダー達が極秘に使用していた菌糸ビンはカワラタケが最初だったらしいです。現在でもカワラタケは扱いにくい菌ですが、当時のブリーダーもそれを嫌って試行錯誤してオオヒラタケにたどり着いたんでしょうね。コスト(工場の1ロット買取り)を考えればあの頃の生体価格も少しだけ納得です。
最初は高価な菌糸ビンでしたが、工業製品ですからたくさん作れば安くなるので需要が高まるとともに年々増産されていき、全国各地のキノコ業者が参入して価格は下がっていき、現在に至ります。もちろん菌糸ビンの価格につられてオオクワガタ生体の価格も下がり、次第に「黒いダイヤ」の称号は超大型個体や野外産にしか使われないようになりました。
私の菌糸ビン飼育デビューは3千円のポリボトル入りでしたけど、前にも書いた通り初令投入で♀を一本がえしでした。サイズは46㎜と今では大したことないサイズでしたが、マット飼育では40㎜台前半しか羽化させられなかったのでそのクワガタの♀としては考えられないサイズに圧倒されましたね。
今では外産種の飼育ができるようになり、昆虫飼育に温度管理は普通の事になりましたが、国産種の飼育しかできなかった時代は「国産種の飼育に温度管理なんて不要」というポジションで菌糸ビンに負けない結果を得るためにユニークな飼育法がいくつか編み出されていたので私の知る範囲で箇条書きで紹介します。
・肉食させる…共食いした幼虫が比較的大きくなる事に発想を得た飼育法。コクワ幼虫やコガネムシ系の幼虫を飼育マットに投入して食べさせる。
・発酵マットに追加の添加物…上記の肉食と同様の理論で釣り餌のサナギ粉などの高タンパクなものを添加して幼虫に摂取させる。キチン質の摂取としてカニの殻を入れた人もいました。
・発酵マットにバナナをまるごと入れる…成虫の餌として非常に優秀なバナナの栄養価を幼虫に摂取させようという発想から。
・発酵マットの添加物を通常の小麦粉以外に変更する…基本は薄力粉なのですが、強力粉や白玉粉、きなこ、米糠など様々な穀物の粉を使った発酵マットが実験されてました。
・材飼育で材に含ませる水に添加物…味の素をはじめとしたマット飼育でも多少の実績があった添加物を材に添加してナチュラルに大きく育てようというコンセプトから。
ざっとこんな感じです。ほとんどが今では誰もやっていないということで結果をお察し下さい(笑)いずれもマットの劣化が早くなったりして結局手間とコストがかかるという本末転倒なお話ばかりでした。
小麦粉以外の添加物としてはフスマの有効性は現在でも評価は変わらないですね。



今回の画像はオオクワガタ(福島県南会津市旧伊南村産 F2 74㎜)20年前なら20万円は下らなかったサイズですが、今では普通サイズ扱いです…