平成2年、私はある漫畫を讀んだ。
手塚治蟲の「ブツダ」である。
カピラバストウの王子シツダルタは、王子の身分を捨て、出家する。
ある獵師と出會ひ、着物を惠んでくれるやうに頼む。
家に案內されると、既にデーパといふ修行者がゐた。
2人で自己紹介し合ひ、食事となる。
獵師の妻が皿1枚の食事を運ぶ。
王子として、裕福な暮らしをしてゐたシツダルタは、
簡素な食事に驚き、「これだけ?おかずはないんですか?」と問ふ。
私は、妻の反論が、30年經つても忘れられない。
「おかず?そんなもの
もつてのほかだつ!」
と言ひ放つ。
1 とんでもないこと、けしからぬこと。
2 予想を超えて程度がはなはだしいこと。
妻からしたら、「そんな物ある譯ないだろ!!」
と言ひたかつたのか。
口に入れたシツダルタは、混入してゐた砂を嚙んでしまひ、
吐き出してしまふ。
デーパ
「いまはき出したものをひろつて
たべなさいつ」
「一つぶのこらずつ」
シツダルタ
「だつて砂がいつぱいまぢつてて・・・」
デーパ
「はき出すとはなんですか?」
「きみはごはんをなんだと思つてるのですか?」
デーパ
「たべるのだ!!それが修行なんですよ」
と叱責され、砂と一緒にご飯を嚙み碎くシツダルタ。
何時までも忘れられない頁である。