下関市立美術館で開催中の標記特別展を観覧してきた。圧倒的に女性が多くて男性はその運転手もしくは付き添いで来ているのではないかと思いきや(僕自身がそうなので)、案外、若い男の子(おそらく高校高学年から大学生くらい)の2人組が熱心に虫眼鏡を借りて細部を観察したり写真を撮ったりしていて、大変ほほえましい光景が見られた。いい意味で裏切られたのである。
単なる花の絵の展覧会というわけではなく、ボタニカルアートとも呼ばれる写実的な植物の絵画作品が陳列されていて、神業的に繊細な点の集積で描かれた作品の数々に魅了された。作者はピエール=ジョゼフ・ルドゥーテといって、フランス革命の前後に、マリーアントワネットやジョセフィーヌにその才を高く買われて宮廷で活躍した植物画家であるという。まだ写真技術が発明されていない時代なので、植物図鑑を作るには絵が必要であり、その専門技術者としてのルドゥーテの作品はまさに芸術の域に達していた、ということなのであろう。
こうした歴史的意義を知ると、やはり学術・文化は、金儲けするためにあるのではなく、逆に金を投じないといけない性質のものであることに気づかされる。ルドゥーテはしかるべき庇護者を得たからこそ、後世にまで高く評価される作品群を残せたのであり、彼にもしそうした庇護者がいなかったとしたら、ここまでの名声を得ることができたか、甚だ怪しいと言わざるを得ない。
昨今の「文化観光」というやり方は、僕にはどうも性に合わない。とくに、地方における学術・文化の振興は、まずは地域社会の人びとが心の豊かさを得るために力を入れるべきものであって、それが結果として、外部からの集客にもつながるという循環を生むのであれば、それはそれで最高だと思うのだが・・・。
インバウンドだかなんだか知らないけれど、そういう以前に、地元市民が潤うことがまずは肝心なのではなかろうか。そんなことを考えさせられた展覧会だった。展覧会の趣旨とは全然関係ないけれど。