萩市の代表的観光スポット、松陰神社境内にある宝物殿至誠館で開催中の標記企画展を見学した。チラシに書かれたキャッチコピーは「僕と一緒に本を読もう」で、なんと、吉田松陰のマンガ風イラストがメインビジュアルになっている。不謹慎な言い方になるが、もはやあの堅物の松陰神社でさえも、こんなにチャラいチラシを作ってしまっているとは、ずいぶんと世の中が変わったものである。
それはさておき、展示の内容自体は、これまでどおりのオーソドックスな手堅い内容であった。展示の中心となるのは「野山獄読書記」など松陰の読書に関する記録で、「西遊日記」や「東北遊日記」などにも本を読んだ記録がある。それらをベースに、実際に松陰が手に取ったそのままの状態の書物(手沢本)もあり、また、それと同等の内容をもつ書物もあり、と、世界が広がる感じの展覧会である。江戸時代屈指の読書家であった松陰の実態を資料に即してありのままにえぐりとる手法は大いに参考になる。おそらくもっとたくさんの展示資料候補があがっていたはずだが、やはりあの展示室の広さではスペースに限界があるのだろう。
同時開催の山田顕義生誕180年記念展「山田顕義最期の帰萩茶会」も拝見した。山田はいわずとしれた松下村塾の門人であるが、この明治25年の帰萩が無念にも最後の萩となって、その直後に生野銀山を視察中に不慮の急死へと至る。その展示物に、このたび萩博物館から出品された茶掛けの五字横幅があるが、今回、ようやくにしてその成立背景が読み解かれるにいたった。
大変勉強になる、至福のひと時を過ごさせていただいた。