萩博物館における新しい試みとして、地域特集展示の第1弾、「クローズアップ三見―萩市の魅力再発見―」の準備を進めている。パネルやキャプション(資料の説明)などは滞りなく準備が終わり、ほぼほぼあとは形にするだけの状態となった。記者発表も本日済ませたところだ。

 

展示の会期は1月30日(土)から6月20日(日)までで、場所は常設展示「人と自然の展示室」の一部である。

 

「三見」は「さんみ」と読み、明治時代以降、山口県阿武郡三見村として存続する。昭和30年(1955)に萩市と合併した。

 

展示の趣旨は、次のようである(チラシより)。

 

萩市の西端に位置する「三見」地域は、日本海に面した北側以外は多数の山々で起伏に富み、自然環境は大変豊かである。古来、人々は土地の特性を生かし、漁業・農業を中心とする生業を営んできた。歴史的資源も豊富で、江戸時代に開かれた宿駅に起源を有する町並みや、大正時代に建設された三見橋(国登録有形文化財、通称眼鏡橋)などがある。この特集展示では、萩市内の特色ある地域の一つとして「三見」に焦点をあて、地域に伝わる「おたから」とともに、多種多様な魅力の一端を紹介する。

 

おもな資料としては、次のようなものがある。

・古代の三見を語る考古資料(出土品)…弥生土器片、石斧など

・三見市の旧薬種問屋「三島養壽堂」関係資料…薬看板、薬入れ袋、神農の焼き物など

・三見浦の羽魚(はいお=カジキマグロ)網漁関係資料…奉納額(豊漁の感謝と祈願)

・吉田松陰が見た「三見」〈パネル展示〉…20歳の時に海防強化の観点から視察

・「御国廻御行程記」に見る三見〈パネル展示〉…江戸時代における街道絵図の傑作

・萩まち歩きマップ「三見地区 おたからマップ」〈パネル展示〉…萩まちじゅう博物館の顕在化

 

萩市内の特色ある地域に焦点をあてて、萩まちじゅう博物館文化遺産活用事業実行委員会と協働して開催する特集展示は、今回が初めての試みである。昨年10月に全面的に改訂された「萩まちじゅう博物館構想」も踏まえたもので、今後も定期的に取り組んでいく予定だ。萩市の知られざる「おたから」や「魅力」を市内外に広め、新たな交流・関係人口の創出につなげていくことをねらいとしている。

 

この展示を実施するにあたっては、次のような経緯がある。

 

①萩博物館は平成16年(2004)11月に開館した。それから間もない平成17年3月、広域合併により現在の萩市が誕生したが、これまで萩博物館が展示などで取り扱う対象は、旧城下町の萩三角州に集中してきた。このため、三見や大井のほか、旧阿武郡部などの周辺地域を紹介する機会はほとんどなかった。

②令和元年(2019)は萩博物館の開館15周年にあたることから、常設展示をリニューアルすることになった。この機会を利用し、新しく命名した「人と自然の展示室」において、広域萩市の情報を反映した展示を行うことに決めた。萩三角州はもとより広域萩市の情報を広く市民・観光客と共有を図ることで、萩市の全域に人々が回遊できる環境を整えることを目指した。これによって、社会環境・産業構造の変化や人口減少などの理由から疲弊・衰退の著しい山間部や漁村部などの活性化に貢献する。

③近年は観光立国を掲げる国の大方針のもと、萩市においても観光振興に力を入れてきた。ところが、昨年早々から新型コロナウイルス感染症が大流行し、「ウィズコロナ」と呼ばれる新しい生活様式が求められ、人々の遠隔地間交流も抑制を余儀なくされている。このような状況に置かれた今だからこそ、市民が自らの住まう市域の魅力を知るきっかけを提供し、近場でも観光を楽しめるような仕掛けづくりをしようとする野心的な取り組みでもある。

 

しかし何はともあれ、こうした展示は初めてのことで、はたして思惑通りにうまくことが運ぶかどうかは未知数である。ただ、たとえうまくいかなくても、試行錯誤をしながら、必ずや市民・地域が元気になるきっかけづくりだけは行い続けねばならない。地域博物館の本当の底力が試されている今だからこそ、やらなければならない展示なのだ。

 

三見は、平成の広域合併前から萩市の一部であるが、ずいぶん疲弊していることは明らかである。そこで第1弾に取り上げるべき地域として三見に目を付けたわけだが、その背景には、地元のいわゆる郷土史家に、文字通りの「生き字引」として大変頼りになる方がおられる。そして、三見公民館にもバイタリティのある職員がおられる。このような好条件が揃うことはそうめったにないと思われる。少々気が早いが、展示の司令塔を務める博物館の学芸職員、展示の材料の提供を担う地元の郷土史家、展示の実施を地元住民に告知する公民館職員との3者がうまく機能したことが、この展示を形にするうえで大きな推進力になったのだろうと僕は見ている。さらには、この3者をつないでくれた、萩まちじゅう博物館文化遺産事業実行委員会のスタッフの存在も見逃せない。このいわゆる「文活スタッフ」は、実は学芸職員よりも地元に入り込んで色々と調査にあたっているので、顔も広く、また信頼もあつく、ここがカギを握っているといっても過言ではあるまい。

 

文活スタッフが中心になって作成した萩まちじゅう博物館「おたからまっぷ」(まち歩きマップ)は、すでに23件を数え、萩博物館でも入手することが可能だ。もちろんWEB上でも閲覧できる。各地域の魅力が満載されたマップであるが、これをもっと多くの方に知っていただくためには、展示で見える化(顕在化)することが一番効果的だと考える。

 

「持続可能な社会」の実現が求めれる昨今、地域に博物館が貢献できる「地域特集展示」は、大変有意義なものになるであろうと考える。地域博物館である萩博物館は、今後もこのような展示を試行錯誤しながら継続していく予定だ。