5月10日付の読売新聞文化面に、「永青文庫 常設展示―収蔵品調査に弾み」という記事が掲載されていた。

永青文庫〈えいせいぶんこ〉(東京都)は、旧熊本藩主の細川家伝来の美術工芸品を所蔵・展示公開する博物館である。

その所蔵品が、熊本県立美術館に常設展示されるというのである。このために、わざわざ「細川コレクション永青文庫展示室」と称する展示スペースを新たに開設したというのは、このご時世にあってたいへん大きな決断であったように思われる。

ちなみに、永青文庫の理事長は、平たく言えば、現在、もと首相の細川護煕氏がおつとめになっている。

ここでのポイントは、東京でしか見ることができなかった旧熊本藩主ゆかりの名品が、地元熊本でも常設で鑑賞することが可能になったという点である。

常設展示が実現するに至ったのには、地元の文化団体などの要望に県が応えたというものだそうだ。

このため、日本史と近代美術の2名の学芸員が熊本県立美術館に新規に採用されたというから、力の入れようをうかがい知れる。

また、文化庁からの補助金、熊本県の地元財界による後押しなど、予算的なバックアップ体制も見逃せない。同県はこのために、今年3月に基金を設立し、10年で7億円の寄付を集めて資料の調査、修復を行うという。

このように、ただ単に、国宝・重文指定を受けたようないわゆる「良い物」を展示して見せるというレベルにとどまらず、きちんとした資料の調査・研究体制、修復・保存体制を伴う形で常設展示が実現したのは、高く評価すべきと思う。つまるところ、しばしば「ハコモノ行政」と揶揄されるように、器だけつくって肝心な内容は二の次という形はとらず、きちんと人と予算のソフト面にまで目が行き届いているという点で、近年まれに見る理想の博物館・美術館の姿をここに見出すことができるのだ。

さらに、地元の熊本大学などとの共同研究も進められるということで、新資料の発見や新しい史実の掘り起しなど、成果が期待される。

現在はとかく、削られがちな博物館の人と金であるが、今後の熊本県立美術館の動向には注目したい。