「フルメタル・ジャケット」
まったく兵舎での暮らしときたら地獄を極めたもんだった。たるんでるヤツには上官殿の怒鳴り声が容赦無く飛んで来る。まったく俺たち新兵の扱いは便所のゴキブリ以下だった。
「いいか貴様ら!」
上官殿は毎朝点呼のときに怒鳴った。
「貴様らクズには人権なんてものは存在しない。学校でのお勉強は全て忘れろ。ここではオレがルールだ。分かったかクソども!」
「サー、イエッサー!」
聞いたところに寄るとトムのヤツが夜中に兵舎を脱走しようとして見回りのヤツらに見つかり袋叩きの上に懲罰房に入れられたらしい。まったく、入隊当初幅を利かせてたヤツに限って根性が無いのだ。それにもうすぐこんな地獄とはおさらばして前線に出られるというのに!
前線は兵舎と比べて天国みたいなもんだった。まさに天と地ほど差があるというヤツだ。昼間はバーベキュー、夜には宴会、言うこと無し。無いものといえば女ぐらいのものだった。それも一部のヤツらは自分たち同士で楽しんでいたようだが…それはまぁ、いいや。
しかしここで何が天国かと言えば、命の重さってヤツが全く平等だということだった。上官だろうか新米だろうが、敵だろうが味方だろうが銃弾に当たっちまえばみんな平等に死ぬ。それが兵舎との一番の違いだった。
敵のゲリラの襲撃は文字通り突然だった。ヤツらは降って湧いたようにオレたちの軍をグルリと取り囲みマシンガンとジェット機によるナパーム弾の集中砲火を浴びせて来やがった。オレはその時どうしたか?走りに走った。いやまったく、あの時ほど真剣に走ったのは人生で無かった。オレはジャングルを走り抜け海岸近くまで逃げて来た。そのとき、何者かがオレの脚を掴んだ。チクショウッ!ヤツら先回りしてやがったのか。オレが凄まじい形相でライフルを構えたとき、懐かしい上官殿の顔が目に入った。
「何をしている!闘え!」
上官殿はこれもまた凄まじい剣幕で怒鳴った。
「貴様はそれでも男か!逃げるなんて恥だと思え!戦場ではタフな男だけが生き残るんだ‼︎」
オレはそれを聞いて心の底から感動した。さすが上官殿、ここに来て兵舎でのしごきや懐かしい日々が胸に蘇って来た。オレは再び冷静にライフルを構え直すと、ピッタリと狙いを上官殿の眉間に定めて引き金を引いた。
ジャングルを抜けて海岸に辿り着くと何人かの仲間と合流して、無事本隊に引き返すことが出来た。まったく、戦場ではタフでなくっちゃ生き残れないのだ。