「ヒステリー」
ごく控えめに言って、彼女は穏やかな性格とは言い難かった。何か気に入らない事があると烈火の如く怒りだし、周りが制止しても聞かず、半日ほどの間、周りの人、物限らず当たり散らした。
周りの友人たちは口を揃えて「一緒に居て疲れない?」とか「よくずっと一緒に居られるね。」という感じのことを言ったが、僕はいつも曖昧な返事をして誤魔化した。
断っておきたいのだが、僕は何も彼女に弱みを握られているだとか、そう言った理由でずっと一緒にいるわけでは無かった。僕が彼女と一緒にいるのは、彼女の中にあるごく繊細な、言わば「僕のためだけのもの」を見つけたからだった。怒りに駆られた彼女がふと我に返った瞬間に見せる、その子猫のように傷付きやすそうな、危ういその表情に、それまでどれほどの罵声を浴びせられていようが、周りにある物を手当たり次第に投げつけられようが、僕は彼女を放っておいて家を出て行くわけには行かなくなってしまうのだった。
いつだったか、彼女が酒の席で、「この人は私がいないと駄目だから。」と言ったとき、周りの皆は、またいつもの彼女の悪い癖が始まったぐらいに思い、適当な相槌を打っていた。しかし僕は酔い潰れた彼女に肩を貸しながら家まで帰る途中、彼女が強がりの緊張から解き放たれたときの今にも泣き出してしまいそうな表情を見た。そしてやれやれと思いながらも、当分の間彼女と離れられることはなさそうだな、と思った。