「コンビニ」
 
 己を殺すことをプロの職人と呼ぶのならば、コンビニの店員は皆職人でなければならないのかも知れない。コンビニほど客層を選ばない店も少なかろう。ガラの悪い客、横柄な態度を取るサラリーマン、始めからケンカ腰の輩…挙げればキリが無い。僕の様な将来の展望も無く30歳を過ぎてコンビニアルバイトのフリーターをやっているような人間に、そんな職人魂やらプロ根性など有ろうハズも無く、深夜勤務で店長の目が届かない事を良い事に、おざなりな接客、態度の悪い客には露骨に嫌な顔をするなど、接客業の風上にも置けない店員だった。客と口論になったことも数回ある。
 ある日、警官が来た。それ自体は珍しい事では無い。防犯カメラの映像を確認させて欲しいなどはよくあることだ。しかし、その日の物々しい雰囲気で只事で無い事が伝わって来た。聞けば、近くのコンビニで刃傷沙汰があったらしい。刺されたのは店員で重体だそうだ。さらには事件後、犯人はこのコンビニで買い物をしたらしい。深夜のワンオペゆえに、レジをしたのは僕という事になる。寒気がして、脇の下にじっとりと汗が滲んだ。カメラの映像を一緒に確認したところ、犯人はこれといって特徴のない男だった。接客中の態度も普通で、さっき人を刺した男とは思えなかった。日常の地続きに非日常がある。そう感じた。
「犯行の動機とか分からないんですかね?」
 最後に何気なく僕は聞いてみた。
「お兄さんには縁のない話かも知れませんが、周囲の証言によると」
 警官は苦笑してから言った。
「接客の態度が気に食わなかった事から口論になって刺したみたいですよ。こんな事言っちゃ何ですが、店員の方も随分態度が悪かったらしくて」