かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」 -15ページ目

「ソープの女~美沙~」三

一階に着き、チーンと間抜けな音がエレベーター内に響く。



扉が開くと、そこから少し離れた待合室の入口あたりでボーイが客に「お客様、ご案内です。」と、すでに声をかけているのが聞こえた。



「うっす。」と、客が答えて立ち上がる気配が伝わってくる。



静かに、けれども着実に近づいてくるボーイと客の足音。



初対面、緊張の一瞬…が、実際はさほどでもない。長年の経験で、美沙の中にタイプ別の対処法がもう確立されているし、自分に無理はしないと心に決めているからだ。



もし客が美沙を人間扱いせずに無理を強いてくるようなら、こちらも負けずに闘ってやるだけだ。そのための心の準備も、自然と出来ている。



「どうぞ、こちらへ。」



ボーイが美沙の前に姿を現し、客をエレベーター内に入るよう促す。



目の前に現れた客は、20代後半と見られる男だった。背は180に少し足りないくらいだろうか。痩せている。坊主頭で、黒いTシャツにGパン、少しいかつい感じがする。美沙の顔を睨むように見て、エレベーターに乗り込んできた。



「どうも~、じゃあお部屋に案内しますね。」



美沙は努めて明るい声を出して初対面の挨拶をし、エレベーターのボタンを押して六階へと向かわせる。



客は美沙と微妙に離れたところに立ち、爪先から頭まで、舐めるように美沙の肢体を観察している。



扉が閉まり、エレベーターが動き出す。すると、客が美沙に体を寄せてきた。



下着越しに、美沙の尻を手のひらで撫で回している。



そのくらいなら、まあ許容できる範囲だ。けれども客の指先が下着の中に侵入して直に美沙の陰部に触れようとした時、美沙はバッと犯罪者を捕まえるようにその手を掴んだ。



「ちゃんと洗ってからにしましょうね~。」



その声は、まるで幼児をあやす保母のようだが、手にはしっかりと力がこもって客の手を抑えつけている。



実際、たまらないのだ。何に触ってきたか、どれだけ汚れているかわからない手で大事なところを触られるのは。



「このくらい、ダメなの…?」



客は不満そうに言い、興ざめした顔で美沙を見ている。



美沙はそれを無視して、ただ前を見ている。



(やれやれ、この客も面倒臭そうだな…どういうタイプだろう。)



美沙の中で、黒い妄念が渦巻く。



変わった趣味の男か、空気を読めないドS男か、勘違い男か、荒っぽいだけの男か、口が悪い男か…それとも、ただのバカヤローか。



エレベーターが六階に着いた。



「どうぞ、そこから右に行ってください。」



客を先に行かせて、美沙はその後ろを歩く。



「そこの、扉が開いている部屋なので。」



美沙に言われて、客は部屋に入った。



「お茶を持ってくるから、そこのベッドにでも座っててね。冷たいのと熱いの、どっちにする?」



「ああ…じゃあ、冷たいのを。」



美沙はうなずき、各階にある給湯室へ向かう。



狭い給湯室の冷蔵庫に入っているお茶のペットボトルを開け、グラスにお茶を注ぐ。それから冷凍室も開け、氷も入れてやる。



お茶を持って部屋に戻ると、客はもうトランクス一枚になってベッドに座っていた。



(やる気満々かよ…。)



言いたい気持ちを抑えこみ、「どうぞ~。」と客にお茶を差し出し、自分はテーブルのそばにペタッと座り込む。



一服である。タバコをくわえ、火をつける。



「いきなりタバコかよ…。」



客が苦笑いして言う。



「うーん。とりあえずね~。」



美沙は平然として答え、呆れたような顔をしている客には取り合わずにゆったりとタバコを吸い、煙を吐いた。