「ソープの女~美沙~」二
この日、最初のコールが鳴ったのは部屋に入って40分ほど経った時だった。
当分、客は来ないのではないかと思い、何も敷いてないベッドに寝ころんでウトウトしかけているところだった。
「来たかあ~。」
コールの音を聞き、うっすら目を開けて美沙はつぶやく。雨の中でも客が来てくれたんだという安堵感と、仕事しなきゃいけないなという、かったるい気持ちがない交ぜになる。
「あ~あっ。」と、呻くように言って、ゆっくり起き上がる。
「フリーのお客さん、50分でお願いします。」
受話器から聞こえてくる、ボーイの乾いた声。
「はーい。」
美沙も眠気を隠そうともせずに答えて受話器を置き、客を迎える準備にかかる。
「フリーか…。」
だるい。フリーの客は、かなり高い確率で初対面の客だろうから、お互いのことがわからないが故に面倒臭いことも起きやすいかもしれない。
(しかも50分…湿気てやがる。)
初めての客は50分で来ることが多い。50分だと、この店は他の店と比べても格段に値段が安いから、お試し感覚でサービスを受けられるのだ。
そして当然ながら、50分のサービスでの女の子の取り分も格段に少ない。
時々、思うことがある。街行く女の子に、わたしはこの値段で、この取り分で見知らぬ男に抱かれてるのよと言ったら、どんな顔をするだろう?と。
90分とか、それ以上とかまで言わないが、せめて70分で来てくれないものだろうか。それなら、そこそこの取り分になるし、客の気持ちで考えても、幾分ゆったりとした気分でサービスを受けられるだろう。料金はもちろん上がるわけだが、50分では本当に溜まったものを出して終わり、という感じになってしまうではないか。50分の中には、体を洗ったりする時間も当たり前のように含まれているのだから。
(ま、来てくれるだけでもありがたいと思わなきゃね…。)
気だるい気分を引きずりながら、湯船にお湯を注ぎ、さっきまで自分が寝ていたベッドにタオルを敷き、壁に掛けてある大きめの鏡の前に立つ。
著しく髪は乱れていないか。顔に何か変なものがついていないか。チェックするのはそれだけである。化粧は最初からほとんどしていないから、心配する必要がない。
男に、客に必要以上に綺麗だと思われたいなどという気持ちは、もうずっと前に消え失せている。
いつ消え失せたのかも思い出せないほどに。
(多少のことで、ごちゃごちゃ言わないでよね…なんたって、ここは本当に信じられないほど安い店なんだから。)
無害な客であるように…と、ほとんど無意識のうちに美沙は祈っている。
湯船にお湯が溜まったのを確認すると、美沙は蛇口を閉め、色気も素っ気もない店用の茶色いサンダルを履いて部屋を出て、エレベーターに乗って客が待っている一階へと降りていった。
当分、客は来ないのではないかと思い、何も敷いてないベッドに寝ころんでウトウトしかけているところだった。
「来たかあ~。」
コールの音を聞き、うっすら目を開けて美沙はつぶやく。雨の中でも客が来てくれたんだという安堵感と、仕事しなきゃいけないなという、かったるい気持ちがない交ぜになる。
「あ~あっ。」と、呻くように言って、ゆっくり起き上がる。
「フリーのお客さん、50分でお願いします。」
受話器から聞こえてくる、ボーイの乾いた声。
「はーい。」
美沙も眠気を隠そうともせずに答えて受話器を置き、客を迎える準備にかかる。
「フリーか…。」
だるい。フリーの客は、かなり高い確率で初対面の客だろうから、お互いのことがわからないが故に面倒臭いことも起きやすいかもしれない。
(しかも50分…湿気てやがる。)
初めての客は50分で来ることが多い。50分だと、この店は他の店と比べても格段に値段が安いから、お試し感覚でサービスを受けられるのだ。
そして当然ながら、50分のサービスでの女の子の取り分も格段に少ない。
時々、思うことがある。街行く女の子に、わたしはこの値段で、この取り分で見知らぬ男に抱かれてるのよと言ったら、どんな顔をするだろう?と。
90分とか、それ以上とかまで言わないが、せめて70分で来てくれないものだろうか。それなら、そこそこの取り分になるし、客の気持ちで考えても、幾分ゆったりとした気分でサービスを受けられるだろう。料金はもちろん上がるわけだが、50分では本当に溜まったものを出して終わり、という感じになってしまうではないか。50分の中には、体を洗ったりする時間も当たり前のように含まれているのだから。
(ま、来てくれるだけでもありがたいと思わなきゃね…。)
気だるい気分を引きずりながら、湯船にお湯を注ぎ、さっきまで自分が寝ていたベッドにタオルを敷き、壁に掛けてある大きめの鏡の前に立つ。
著しく髪は乱れていないか。顔に何か変なものがついていないか。チェックするのはそれだけである。化粧は最初からほとんどしていないから、心配する必要がない。
男に、客に必要以上に綺麗だと思われたいなどという気持ちは、もうずっと前に消え失せている。
いつ消え失せたのかも思い出せないほどに。
(多少のことで、ごちゃごちゃ言わないでよね…なんたって、ここは本当に信じられないほど安い店なんだから。)
無害な客であるように…と、ほとんど無意識のうちに美沙は祈っている。
湯船にお湯が溜まったのを確認すると、美沙は蛇口を閉め、色気も素っ気もない店用の茶色いサンダルを履いて部屋を出て、エレベーターに乗って客が待っている一階へと降りていった。