官能小説「夕日に隠れて」四 | かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」

官能小説「夕日に隠れて」四

「坂口くん……、あの時のこと、覚えてる?」



松倉が潤んだ瞳で話し始める声と一緒に、僕の官能を刺激する松倉の吐息がフワリとかかってくるような気がして、もう問いかけに答えるどころではない。



「ああ……え…?」



この微妙な距離で、ほのかに匂い立つ松倉の香水と、その存在から唐突に漂ってくる大人びた女の香りが、僕の魂と肉体を震わせる。



それは新鮮な驚きであり、命の根源、遺伝子にしなだれかかってくるような懐かしい感覚でもあり、そして……言うまでもなく性的な引力でもあった。



「覚えてるって…何を?」



やっと声を出したが、その声はかすれ、語尾の震えを押さえるので精一杯だった。



そして僕の膝には、相変わらず松倉の手のひらのぬくもりが伝わってきている……。



「ほら、秋季大会の試合に負けた後さあ…」



松倉がそう言いかけた途端、僕はそれまでの興奮状態から醒めて、血の気が引くような思いがした。



去年の秋季大会の準々決勝の試合、三番バッターとして出場した僕は、再三訪れたチャンスの打席で、ことごとく凡退した。



その内容も、我ながらひどいものだった。三連続三振のあと、カーンと打ち上げた打球は、ファウルフライ。



試合自体も、2-3で負けた。僕が打っていれば…という思いに打ちひしがれ、屈辱感に苛まれた。



悔しくて、たまらなくて、僕はその後、目の色を変えて練習にのぞんだ。



「坂口くん、すごい勢いで練習してたよね…みんなと練習してる時も…練習が終わった後も、ちょっと素振りしてたじゃん?」



「うん…してたな。」



悔しくて、そうせずにいられなかったのだ。



「悔しかっただろうけど、すぐに前向きになって練習してて、いいなあって思ったよ。」



まっすぐな瞳で、松倉が僕を見つめる。



一度は醒めかけた僕の心が、きれいな松倉の目と暖かい手のひらによって、ゆっくりと、また恍惚とした色に染められてゆく。



(これって、キスするタイミングなのか…?)



僕はそう思って、俄(にわ)かに緊張し始めた。



僕は、今までキスしたことがない。



まともに、と言うか、性的な感情をもって女の子の体を触ったこともない。



今は野球に夢中で、そのことをあまり気にかけてはいなかったのだが……



(いいのか?いくべきなのか?)



(どうする?)







据え膳食わぬは男の恥……!?