官能小説「夕日に隠れて」三 | かわぞうの小説集「官能小説・ひとりごと・etc」

官能小説「夕日に隠れて」三

だいたい、僕と松倉は、言うほど仲が良いわけではないのだ。



もちろん、仲が悪いわけでもないのだけれど…



普段からよく話をするような関係ではない。



でも、僕が松倉を、女として意識していなかったかというと…



いや、やっぱり意識はしていなかった。なぜかというと、松倉には、他につきあっている男がいるからだ。



そう、松倉には彼氏がいる。僕だけが知っているわけではない。そのことは、野球部のほぼ全員が知っていると思う。



そいつは他校の生徒で、僕はこの目で見たことはないのだけれど、ウワサだと、女にモテるタイプの、えらいかっこいいヤツらしい。



ただ、松倉に関しては、こいつ気の多い女だな、という印象もあった。



みんながいる前で、先輩とか後輩とか関係なく、見た目のいい男を見つけると、「あの人かっこいい。」と、複数の男に対して、よく言っているのを目にしていたからだ。



ある有名な俳優のことを口にして、「あたし、あの人になら何されてもいい。」なんて大胆なことを言っていたのも覚えている。



もっとも、僕がそれで松倉のことを軽蔑したことは一度もない。



気が多いなというのも、「あのビルは高いね。」と言うのと一緒で、ほとんど他人ごとの感想なのだ。



周りのヤツらも、松倉のことを嫌ってはいなかったと思う。寧ろ、あっけらかんと男を褒める気持ちの良さを感じているのではないか。



それに、マネージャーやってくれてるだけでも、ありがたいしね。



むさくるしい男たちの集まりの中で紅一点、貴重な存在である。



「これ、かけといていい?」



不意に松倉が立ち上がって、制服の紺のブレザーを脱ぎ、壁にかけてあったハンガーを取った。



「ああ…いいよ。」



かけ終わると、再び松倉は床に腰を下ろした。さっきまでブレザーの影に隠れていた、眩しい皓白(こうはく)のワイシャツに覆われた豊かな胸の膨らみが、僕の心を激しく揺さぶる。



松倉が、僕の顔を見ているのを感じた。



けれども、僕は照れくさくて目を合わせることができない。



小さな窓を見て、松倉の視線に気づかないふりをする。



と、松倉はなんの予告もなく、すっと立ち上がって僕の隣のパイプ椅子に座った。



(えっ!?)



僕は、僕と窓の直線上のすぐそばに割り込んできた松倉の存在を無視するわけにもいかず、ぐっと息を飲み込んで、恐る恐る松倉の顔を見た。



松倉は挑発的な笑みを浮かべ、僕の顔を楽しそうに見つめる。



僕は、松倉のその笑顔に吸い込まれてしまいそうな怖れと、こみ上げてくる甘い期待と高揚感を同時に感じた。



「このぐらいの時間てさあ、なんかちょっと寂しくて、せつない気分になるよね。ねぇ、そんなふうに思わない?」



松倉はそう言って、僕の膝に手のひらを当てた。



松倉のその行為が、他意のない、単なるコミュニケーションの一部としてなのか、それとも、僕の甘い期待を現実のものにするきっかけとなるものなのか…



僕は、さらに高鳴る鼓動を感じて我を見失いそうになりながらも、それが後者であることを願わずにいられなかった。