官能小説「放課後の夜」三十一
良雄は撃ち抜かれたように一瞬、止まる。
(何だ?あいつは…。)
出来るだけ動揺を悟られぬよう、長い廊下をまた歩き始める。
竹村涼子。以前、達也など友人たちの間で良雄をおちょくるために散々出てきた名前だ。
曰わく、竹村はお前のことを気にしてるぞ、と。
良雄は、かつて竹村涼子と席が隣同士だったことがある。今年の春から夏にかけてであったが、そんな噂になるほど仲良くしたつもりは、少なくとも良雄のほうにはない。
普通のお隣同士、それ以上でもそれ以下でもない感じなのだ。
涼子のほうから何か具体的に好意を示された記憶もない。
なぜそんな噂が立つのか。何を根拠に言うのか。達也に聞いたこともあるのだが、口ごもってあやふやな話をするばかりで明確な答えは出てこず、何を言っていたか思い出せもしない。
歩きながら、良雄はチラと涼子のほうを見る。
まだ経験も浅く、視野の狭い良雄の目にはさして魅力的にも写らないのだが、大人の目から見れば涼子はまさに「原石」と言うにふさわしい容貌の持ち主である。
三年生になって引退するまで陸上部の短距離選手だった涼子は、その名残で肌は浅黒く、まだ洒落っ気もないが、それぞれの部位は素晴らしい可能性を秘めている。
黒く輝いて痛みを知らない髪といい、意志を含んで訴えかけるような強い目といい、美しく健康的な歯並びといい、そして輪郭は出過ぎず丸過ぎず、小さく形良くまとまって、無駄なくしゅっとした首筋と良く調和している。
スタイルも申し分ない。野暮ったい制服によってあまり目立ちはしないが、細いわりに胸は程良く出ているし、くびれた腰とバランス良くしなやかに伸びた長い四肢は将来、色気づいた男たちのギラギラした視線に照らされて光り輝くであろう。
しかし奈津子のことで頭がいっぱいの良雄は、そんなことなど露ほども考えられない。良雄の中で、その涼子のあらゆる可能性は彼女がスプリントする際に受ける風に全て吹き消され、あとに残るのはただ少し生意気だという印象と、背が高いなという印象と、それだけになってしまうのであった。
良雄はやや早足で歩き、やがて涼子の目の前まで来たが、うつむいて声もかけずに通り過ぎて十字の廊下を曲がり、玄関へ向かおうとする。
が、その時
「 待ってよ、波川くん。 」
と涼子がにこりともせずに後ろから良雄を呼び止めた。
振り返る良雄。そこへ涼子がゆっくり歩み寄る。
さっき歩いていた保健室の前の廊下は、玄関に向かって曲がったせいで今は視界から消えている。涼子に保健室から出てくる奈津子を見られる心配はない。
「 なんだよ。 」
「 今お帰り?何してたの? 」
(なんなんだよ、お前は…。)
涼子の厚かましさに良雄は苛立つ。けれどもここはうまく切り抜けたい。
「 ちょっと具合悪くなってな。保健室で休んでたんだよ。 」
すると涼子は、
「 へ~。そうなんだ。奈津子先生も一緒に? 」
と言った。
良雄は凍りついた。
(こいつ…見てたのか!?)
(何だ?あいつは…。)
出来るだけ動揺を悟られぬよう、長い廊下をまた歩き始める。
竹村涼子。以前、達也など友人たちの間で良雄をおちょくるために散々出てきた名前だ。
曰わく、竹村はお前のことを気にしてるぞ、と。
良雄は、かつて竹村涼子と席が隣同士だったことがある。今年の春から夏にかけてであったが、そんな噂になるほど仲良くしたつもりは、少なくとも良雄のほうにはない。
普通のお隣同士、それ以上でもそれ以下でもない感じなのだ。
涼子のほうから何か具体的に好意を示された記憶もない。
なぜそんな噂が立つのか。何を根拠に言うのか。達也に聞いたこともあるのだが、口ごもってあやふやな話をするばかりで明確な答えは出てこず、何を言っていたか思い出せもしない。
歩きながら、良雄はチラと涼子のほうを見る。
まだ経験も浅く、視野の狭い良雄の目にはさして魅力的にも写らないのだが、大人の目から見れば涼子はまさに「原石」と言うにふさわしい容貌の持ち主である。
三年生になって引退するまで陸上部の短距離選手だった涼子は、その名残で肌は浅黒く、まだ洒落っ気もないが、それぞれの部位は素晴らしい可能性を秘めている。
黒く輝いて痛みを知らない髪といい、意志を含んで訴えかけるような強い目といい、美しく健康的な歯並びといい、そして輪郭は出過ぎず丸過ぎず、小さく形良くまとまって、無駄なくしゅっとした首筋と良く調和している。
スタイルも申し分ない。野暮ったい制服によってあまり目立ちはしないが、細いわりに胸は程良く出ているし、くびれた腰とバランス良くしなやかに伸びた長い四肢は将来、色気づいた男たちのギラギラした視線に照らされて光り輝くであろう。
しかし奈津子のことで頭がいっぱいの良雄は、そんなことなど露ほども考えられない。良雄の中で、その涼子のあらゆる可能性は彼女がスプリントする際に受ける風に全て吹き消され、あとに残るのはただ少し生意気だという印象と、背が高いなという印象と、それだけになってしまうのであった。
良雄はやや早足で歩き、やがて涼子の目の前まで来たが、うつむいて声もかけずに通り過ぎて十字の廊下を曲がり、玄関へ向かおうとする。
が、その時
「 待ってよ、波川くん。 」
と涼子がにこりともせずに後ろから良雄を呼び止めた。
振り返る良雄。そこへ涼子がゆっくり歩み寄る。
さっき歩いていた保健室の前の廊下は、玄関に向かって曲がったせいで今は視界から消えている。涼子に保健室から出てくる奈津子を見られる心配はない。
「 なんだよ。 」
「 今お帰り?何してたの? 」
(なんなんだよ、お前は…。)
涼子の厚かましさに良雄は苛立つ。けれどもここはうまく切り抜けたい。
「 ちょっと具合悪くなってな。保健室で休んでたんだよ。 」
すると涼子は、
「 へ~。そうなんだ。奈津子先生も一緒に? 」
と言った。
良雄は凍りついた。
(こいつ…見てたのか!?)