「ソープの女~美沙~」十
「そんなあ…他のコもしないの?」
客はあからさまにガッカリして、美沙に聞く。
それに対して美沙は
「他のコはどうかなんて知らないよ。とにかくあたしは嫌なの。」
と、ピシャリと言い切った。
それでも客は諦めきれないらしく、顔を近づけて何度かキスしようと試みた。が、やはりことごとく美沙にかわされる。
「本当に嫌なんだね…。」
残念そうに客が言う。
「だから言ってんでしょうが。しつこいよ。」
客を睨みつけて美沙は言った。
「わかったよ…悪かったって。」
沈んだ声で客がそう言い、キスするのは諦めて黙って腰を振り始めた。
それから数分後、もう演技の声を出すことすら面倒で、うっすら目を開けてただ天井を見ている美沙の上で、客はあっさりと果てた。
後始末。客の体を洗ってやり、自分の体も洗う。お互い無言のままで。
客は美沙のサービスに満足してはいないだろう。が、美沙はそれをかえりみない。
理由は、この店は前述のとおり激安なので、客の回転が通常の価格の店よりいいから、サービスを頑張って固定客をつくらなくてもそこそこの収入があるからだ。確かに一回の稼ぎは少ないが、長いスパンで見ると波が大きくない。
そして、収入の波が大きくないということは、精神的な波も大きくならないということだ。無理に頑張って一時期稼いでも、そのリバウンドが必ずやってくる。店側からの突き上げもきつくないことだし、あまり頑張らずに適度な加減でやっていくのが生来面倒臭がり屋の美沙に適合してもいるのである。
体を洗う作業が終わり、時計を見る。残りは10分弱。この雰囲気からいっても、キッカリ50分間接客する必要はあるまいと美沙は判断する。とりあえず一服して、残り5分くらいになったら客を帰してしまおう。時短というやつだが、客もこの感じでここに居ても気分は良くないだろうから、構うことはない。
客に服を着るよう促し、ガラスの机の傍にペタンと腰を下ろしてタバコをくわえ、ライターで火を点ける。
煙を吸い込み、煙を吐く。
その虚ろな瞳で、この腐った空間に浮かんでは溶けてゆく儚い煙の行方を見つめる。
客が服を着終わり、ベッドに座った。横目に見える、手持ち無沙汰のその姿が鬱陶しい。
短くなったタバコを灰皿でもみ消し、また時計を見る。正確にはまだ6分残っているが、もういいだろう。
「じゃあ、行きますか。」
客に声をかけると、客は美沙をチラと見て無言で立ち上がった。
「お客さん、お帰りになります。」
ボーイにコールで知らせる。
エレベーターに二人で乗り、一階に着いた。
「気をつけて。」
たった一言で美沙は客を送り出した。客は振り返りもせずに去ってゆく。
ふうっと一息つき、エレベーターの扉を閉めようとすると、そこにボーイが慌てて割り込んできた。
「ごめん、ちょっといいかな。」
ボーイが険しい顔をして言う。
嫌な胸騒ぎがした。
客はあからさまにガッカリして、美沙に聞く。
それに対して美沙は
「他のコはどうかなんて知らないよ。とにかくあたしは嫌なの。」
と、ピシャリと言い切った。
それでも客は諦めきれないらしく、顔を近づけて何度かキスしようと試みた。が、やはりことごとく美沙にかわされる。
「本当に嫌なんだね…。」
残念そうに客が言う。
「だから言ってんでしょうが。しつこいよ。」
客を睨みつけて美沙は言った。
「わかったよ…悪かったって。」
沈んだ声で客がそう言い、キスするのは諦めて黙って腰を振り始めた。
それから数分後、もう演技の声を出すことすら面倒で、うっすら目を開けてただ天井を見ている美沙の上で、客はあっさりと果てた。
後始末。客の体を洗ってやり、自分の体も洗う。お互い無言のままで。
客は美沙のサービスに満足してはいないだろう。が、美沙はそれをかえりみない。
理由は、この店は前述のとおり激安なので、客の回転が通常の価格の店よりいいから、サービスを頑張って固定客をつくらなくてもそこそこの収入があるからだ。確かに一回の稼ぎは少ないが、長いスパンで見ると波が大きくない。
そして、収入の波が大きくないということは、精神的な波も大きくならないということだ。無理に頑張って一時期稼いでも、そのリバウンドが必ずやってくる。店側からの突き上げもきつくないことだし、あまり頑張らずに適度な加減でやっていくのが生来面倒臭がり屋の美沙に適合してもいるのである。
体を洗う作業が終わり、時計を見る。残りは10分弱。この雰囲気からいっても、キッカリ50分間接客する必要はあるまいと美沙は判断する。とりあえず一服して、残り5分くらいになったら客を帰してしまおう。時短というやつだが、客もこの感じでここに居ても気分は良くないだろうから、構うことはない。
客に服を着るよう促し、ガラスの机の傍にペタンと腰を下ろしてタバコをくわえ、ライターで火を点ける。
煙を吸い込み、煙を吐く。
その虚ろな瞳で、この腐った空間に浮かんでは溶けてゆく儚い煙の行方を見つめる。
客が服を着終わり、ベッドに座った。横目に見える、手持ち無沙汰のその姿が鬱陶しい。
短くなったタバコを灰皿でもみ消し、また時計を見る。正確にはまだ6分残っているが、もういいだろう。
「じゃあ、行きますか。」
客に声をかけると、客は美沙をチラと見て無言で立ち上がった。
「お客さん、お帰りになります。」
ボーイにコールで知らせる。
エレベーターに二人で乗り、一階に着いた。
「気をつけて。」
たった一言で美沙は客を送り出した。客は振り返りもせずに去ってゆく。
ふうっと一息つき、エレベーターの扉を閉めようとすると、そこにボーイが慌てて割り込んできた。
「ごめん、ちょっといいかな。」
ボーイが険しい顔をして言う。
嫌な胸騒ぎがした。