蓮が【ナツ】を抱き留めた瞬間、スタジオには割れんばかりの悲鳴が響き渡った。
「イヤーーー!!蓮様ぁ!!その手を離してーー!!」
「おおおぉ!?敦賀蓮氏遂に動き出す!!か!?」
「///蓮様素敵……!!ナツ様になりたい……////」
思い思いの感想を述べつつ、観客と出演者達はモニター先の二人を見守り続ける。
『ほら……危ないだろ?しっかり歩けないじゃないか。……どうしてこんなになるまで呑んだりしたんだ?』
キョーコをしっかりと抱きしめながら、蓮は耳元に囁く。
キョーコは掛かる吐息に微かに身を震わせ、黙ったまま蓮を腕の中から見上げる。
熱に潤んだ瞳に蓮は
『こんな無茶をしなければ、君は俺に近づく事すらしてくれないっていうのか………?』
-ツ…ゥ-
と蓮がナツの頬から顎にかけて明確な意思を伝えるように撫でる。
『…んっ…』
とナツが悩ましげに吐息を漏らすとそれを見た蓮は
--ニィ--
凄絶な艶笑を浮かべる。
それを花瓶に仕込まれたカメラが捕らえると--
ギャアアアアアアアアァァーー//////!!
またしてもスタジオ騒然!!
今度は黄色い悲鳴と叫びが鳴り止まない。
セットの外で見ていた社は、顔を引き攣らせている。
おいおいおいおい大丈夫かーー!!!
なんだそのフェロモン全開発情顔は///////!?
こっちが恥ずかしくなるぞ////!?
遂に本性がでてしまったのか!?そんな表情敦賀蓮さんじゃないだろーー!?
キョーコちゃんに引きずられ過ぎて我を忘れているんじゃないだろうな!!
踏ん張ってくれー蓮!!とハラハラしながらも祈るように見守っていた。
モニターに映る蓮は続ける。
『わざわざこんな事しなくたって、俺はいつだって、君にオシエテあげたいよ?……君がどれだけ魅力的で、危うい存在なのかを……』
夜の帝王と化した蓮は--
キョーコの耳に掛けた指でうなじにかかる髪を掬いながら、大きく開いた背中に滑らせた。
広い手の平で撫でるように腰まで下ろし、その腰ごと身体をきつく抱えた。
その間キョーコは堪え難い刺激にびくびくと身体を震わせ、時折小さく甘い吐息を漏らした。
スタジオは二人の放つ艶めかしさとあまりの展開に、恋愛映画のラブシーンに差し掛かった映画館内のように静まりかえり、固唾を飲んで食い入るように見つめている。
キョーコは混乱していた。
何? コレ…?
これじゃ、まるで逆じゃない?
私が、誘惑しなきゃいけないのに…
【ナツ】は震える指で
蓮の頬に触る。
『私は、貴方と対等でいたいの。貴方に惑わされるだけじゃ嫌。貴方の眼を……私から離したくないの………』
頬の手を、親指だけ唇に触れさせ、ゆっくりとなぞり……うっとりと笑う。
蓮も艶やかに笑い返し
『言われ無くても、とっくに君には釘付けだよ?……やっと君から触れてくれたね?
嬉しいよ……もっと……
触って?』
最後の言葉は吐息だけで綴られた。
色気の中に奇妙な優しさが混じり、とんでもない迫力の蓮に、スタジオ内は押し殺した悲鳴が方々からあがる。
悩殺され倒れそうになる者もちらほら。
『でも……素直には信じられないな。………どうしても疑ってしまうよ。君は今【ナツ】だしね。
仕事なら誰に対してもこんな風に相手を魅了してしまうんじゃないだろうかって……不安になってしまうよ?』
室温が下がった気がした--
キョーコが見つめる蓮は、先程までの色気をたたえたまま
不安などと言う生易しい感情以上に激しい
魔王のように怪しい眼光を放ち始めていた--
続く