傷物語-こよみヴァンプ-感想 | 罪とエックス

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罪の告白

2024年1月12日(金)
劇場版「傷物語-こよみヴァンプ-」を見ました。

正直なところ、見る前の印象としては期待していませんでした。
「傷物語」は原作小説も読んでいるし、2016年に3部作で公開された映画を劇場で見たし、それを収録したブルーレイディスクも買って見ているので、特に感想が更新されることはないだろうと思っていました。

しかし、それは覆された。
めちゃくちゃ面白かった。
「傷物語」ってこんなに面白かったんだ。
初めて鉄血編を見たときの感情を思い出した。

(まず、「鉄血編」「熱血編」「冷血編」を見ていて、今回の総集編を見ていない人への説明としては、劇場版3部作を違和感なく繋げて再編集したものという感じです。映像のクオリティとしてはブルーレイ版の劇場版3部作と同程度です。キャストの音声は一部を新たに撮り直したそうですが、素人の俺としては違いが分からないぐらいには同じものでした。)

2016年公開の「傷物語 鉄血編」を見た人は分かると思うが、アニメ「化物語」と違って、主人公の阿良々木暦のモノローグや独白が極端に少ない。とはいえ、モノローグなしで全編進めるのは難しいので、「熱血編」「冷血編」では少しあったような記憶がある。
しかし、今回の総集編ではその「少しはあった」モノローグまでも削られて、完全に映像と声(リアルで話している声)だけのものになっていた。

そして、劇場版3部作を「違和感なく繋げて再編集」するとはどういうことなのか、それはストーリーの本筋に直接関係ない部分(主に雑談など)をカットする、映画の進行するシーンの順番を入れ替えてよりテンポ良くするという感じ。
それによって何が起こるか。「中だるみ」がなくなるということ。映像が弛緩すると視聴者の気持ちも弛緩する。弛緩した状態で再度緊張した場面に戻っても、緊迫感を取り戻すのに苦労するので、作品全体の緊張状態をキープするというのは、ストーリーの終盤の盛り上がりを受け止め、興奮を享受することができる。
小説に存在していて、今回の劇場版に収録されていないシーンはたしかにけっこうある。それにけっこう重要なシーンも多い。しかし、それを省くことで映画としての価値は上がっている。「小説は小説でもちろん素晴らしいが、映画もこれはこれで良いよね」ぐらいの完成度に仕上がっている。

結果
面白くなった。

映像はほぼ同じなのに、前より面白い。これはどういうことか。
まず単純に、鉄血編の部分から最後の冷血編の部分までを鑑賞できるという点が大きい。原作は1冊の書籍なので、途中で分かれていたりすることはないし、ましてや分かれている部分の発売日が違ったりすることはない。一度に摂取できるはずのものが3分割されていたのだから、視聴者の満足度が上がらないのも当然である。
また、今回のこれは映画であって小説ではない。映像体験を向上させるために原作の内容と変わる部分があるのは当然だし、今回はそれが上手くいった。

面白かった。
それだけではない。面白かったことを思い出した。

物語シリーズのアニメシリーズ、原作の続巻群、これらを鑑賞するうちに最初の気持ちから変容してしまっていたように思う。
アニメ「化物語」を見たときに感じていた感情。小説「傷物語」を読んだときに感じた感情。
それを思い出した。

「俺、物語シリーズが好きだ」

そうだった。
好きだったのだ。
好きだから心動かされる。嬉しくなるし、悲しくなる。痛くなるし、キツくなるし、虚しくなる。

好きだった。
好きだったことを思い出した。
好きだったことを思い出したということは、今も好きなのだ。

それを実感させてくれた。


この作品は、シリーズを途中で見るのをやめた人にこそ見てほしい。2012年に公開予定だったのが延期されて脱落した人、2016年に3部作公開だと聞いて脱落した人、鉄血編を見終わった後に脱落した人、鉄血編と熱血編を見終わった後に脱落した人、もしそんな人がいたらぜひこの「こよみヴァンプ」を見てほしい。俺たちが2012年に見たかったものが出来上がっている。


これは良い作品です
また見ます。
原作もまた読みたくなってきた。カットされた部分を確認するために、劇場版3部作をまた見るのもいいかもしれません。

これは、おすすめです。
俺たちの青春は、まだ終わってはいなかった。