日経の記事によると “2022年度に2%上昇の物価目標を達成した場合、24年度からの7年間の損失は計19兆円となり、自己資本(8兆円)が吹き飛ぶ” という試算があるようです。


膨らむ日銀 債務超過の足音、描けぬ出口戦略: 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31483580X00C18A6SHA000/



また、同記事では次のように続けています。


“日銀が過小資本となれば、信用が揺らぐ。政府の支援が必要になると、金融政策の独立性が脅かされ、通貨の信認を失うおそれもある。会計検査院は「財務の健全性の確保に努めることが重要だ」と日銀に対し、さらなる利益の積み立てなど対応を求める”


日銀法には債務超過時の規定は無く、通貨発行でファイナンスができます。なぜ、信用が揺らぐのか全く分かりません。

「信用が揺らぐから財務の健全性に配慮し、財務省の助けが必要だ」とでも言いたいのでしょうか。

(中央銀行を一般の企業と同列に扱い、不安を煽ることで、拡張的な金融政策を続けることを妨げる狙いがあるとすれば筋悪とはいえ、手段の割当は合っているようにも感じます)


目標とする金利の引き上げや金融緩和からの「出口」を急がせる議論も多く感じます。

出口よりもまずは完全雇用とインフレ目標、名目GDP600兆円の達成こそ、国民生活にとって重要であり、議論がなされるべきと考えます。

国債取引量が減ったり(取引で利益を得る債券ディーラーはお困りでポジショントークをするインセンティブがあるのは分かります)、低金利で利ざやを気にするのであれば、国債の供給側である政府・財務省に国債増発を訴えるべきではないでしょうか。記者クラブとの力関係、国税、予算など強大な権力を保持する財務省の意に沿わないことは言いづらいのかもしれませんが…



「出口」については野口旭さんの記事(*1)によると、福井日銀の時の量的緩和からの出口、FRBの出口の実例から大きな混乱が無い点を挙げています。また、現在の日銀は長短金利操作付き量的質的金融緩和、いわゆる「イールドカーブコントロール」(YCC)を用いた金融緩和政策を行なっており、10年もの国債利回りをゼロ近傍としている目標から目標金利を引き上げることを通じて、緩やかな「出口」政策を取ることが考えられる、とされています。



更にご興味があれば、書籍「アベノミクスは進化する」(*3)の「量的緩和の出口は日本経済にとって危険か」と「中央銀行の出口の危険とは何か」の章をご一読されることをお勧めします。


元FRB議長のバーナンキは日銀の債務超過について「非生産的な議論」(*4)と述べていますね。



債券ディーラーや財務省、旧日銀など既得権者側が喜ぶ記事が多いのは、森友における財務省の不備・不正や獣医学部申請を告示で門前払いにして行政を歪めてきた文科省が余り叩かれない構図と似ています。

多くのメディアも既得権者の仲間か、既得権者そのものであり、ポジショントークをしている可能性を考慮して記事を読む必要性を感じます。



(*1)『異次元緩和からの「出口」をどう想定すべきか』(野口旭,ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト, 2017.4.10)

http://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/04/post-8.php


(*2)『日銀債務超過論の不毛』(野口旭,ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト, 2017.05.08 )

http://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2017/05/post-9.php


(*3)『アベノミクスは進化する』(原田 泰、片岡 剛士、吉松 崇 各氏編集, 2016.12.26)

https://amzn.to/2sTCMzX


(*4)Remarks by Governor Ben S. Bernanke

Before the Japan Society of Monetary Economics, Tokyo, Japan 

May 31, 2003

https://www.federalreserve.gov/BOARDDOCS/SPEECHES/2003/20030531/default.htm